引き裂かれた家族 『山椒太夫』 | 嵐屋書店

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本、映画、音楽、ゲーム等について、私なりの的確さで良いところ良くないところをあげていきたいと思います。何か面白いものはないかとおさがしの方の参考になれば幸いです。 Arashi Jun

 平安時代、男の子の厨子王(ずしおう)は役人の父から小さな観音像を肌身離さず持つように言われた。厨子王と妹の安寿(あんじゅ)は母とともに川を渡ろうとするところ、男たちに母だけ小舟にのせられ、安寿と厨子王は引き離された……。
 家族をおそう過酷な運命。有名な民話を題材にした森鴎外の同名原作を映画化した溝口健二の代表作。

(ここからは観てからのほうがいいでしょう)
 兄妹は豪族の山椒太夫(さんしょうだゆう)に売られ、過酷な労働をしいられた。大きくなった二人は山椒太夫に言われ、病人を山に捨てに行く。厨子王はこのまま逃げようと安寿に言う。安寿は私が山椒太夫の手下たちをひきつけておくすきに逃げてほしいと言う。厨子王は病人を背負い、寺に逃げ込んだ。安寿は入水自殺をする。厨子王は都へあがり、関白に山椒太夫の悪行をやめさせるよう直談判に行く。はじめ相手にされなかったが、父からもらった観音像のおかげで、役人の息子と認められる。残念ながら父はすでに死亡していた。山椒太夫の土地をふくむ場所の国守に任ぜられた。国守になった厨子王は早速、山椒太夫に人の売買や過酷な労働を禁止する命令をくだした。そして安寿を捜したが死んだと聞かされた。山椒太夫の家には火がはなたれ、炎上した。厨子王は売られて遊女になっていた母を捜し歩く。母は津波で死んだと聞かされた。しかし、海岸の家で母と再会し、抱きしめあうのだった。

 前半、あまりにも過酷で観ていてきつい。いやな気分になる。しかし、それゆえに山椒太夫がやっつけられたときスカッとする。それとラスト母と再会できて、思わず目頭が熱くなる。母役の田中絹代が最高の演技を見せてうまい。心を打つ。溝口健二の演出は的確だ。それとなんでこんなに宮川一夫のカメラはいいんだろうと感心する。映像の質感、構図、被写体との距離感と言うことない。アップがほしいときにきっちりアップが入る。あと細かいことだが、タイトルが残念が気がする。もとはといえば森鴎外の原作からこうで、 『山椒太夫』というのは聞いた感じ(語感)は悪くないのだが、悪の権化がタイトルでは気分が悪い。それとラスト、早坂文雄の音楽は良いのだが、ずれて二重にかさなっているのはそれまで完璧だったのになんでだろうと思う。とにかく、全体としてさすが巨匠溝口健二と言える作品だった。お月見

溝口健二 大映作品集Vol.1 1951-1954/溝口健二

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