「んふふ寝るってしあわせだよね〜」

距離を取ってベッドの隅の方に寝た俺に、智はするすると近付いて腕にちょこんと頭を乗せた。
さっきまであんなに人を責めるような目してたのにコロッと甘えてきて…

「落ちるからあっち行けって」
「潤くんが端に寄りすぎなんだよ」

どんなに落ちそうになっても智にだけは掴まんねぇ。
俺から智には触んねぇ。
そう神と翔くんに誓う。

「んふふひとりじゃないっていいね」


​────どうしても埋まらない何かがあって。

それを埋めるべく努力する人間と、
埋まってないのに蓋をしてなかったことにする人間と。

とりあえず別の何かで埋めてしまう人間と。

誰が正しくて誰が間違っているのかなんて誰が決めることではなく。

「潤くんはやさしいね」

『俺以外の人』に埋めて欲しかったものを『俺』が埋めたところで
それは一時的なものでしかないことなんて誰よりも本人がわかっているわけで。

「……寝ろよもう」

その『一時的なもの』がどうしても必要なときってのはあるわけで。

それに打ち勝つことが正しいだなんて誰が決めることではなく。

「潤くんがやさしいって…いつかニノも言ってたよね、懐かしい」

きゅ、と腕が掴まれて。

「……ダメだ、なんでもニノを思い出しちゃう」

​────智の声は、消えそうにか細い。
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「……思い出しちゃダメなんて誰も言ってないじゃん」
「…え?」
「この前からさ、なんで無理に気持ちに見切りつけようとしてんのか俺わかんないんだけど」

「だ…だって」
「別に普通にしときゃよくない?何急に『ちゃんと失恋する』とか言い出して突っ走って俺にまで迷惑かけてんの」


好きなだけ思い出して好きなだけ好きでいればいいじゃん。
わけわかんねぇ。

「だって潤くんハッキリ断られてんのにすごいしつこくしてるからバカだなって思ったんだもん」
「…っ、はぁぁ!?」
「翔ちゃんに言葉でも態度でも無理だって言われてるのに、潤くん全然響いてないんだもん」
「ちょ…俺悪口言われてる?」
「俺はあんな風にニノに言われたことなかったから
言われたらきっと諦められる、前に進めるって思ったんだもん」

なんなんだよ。
智にバカとか思われてたなんて心外なんだけど!

「言われても全然引きずってんじゃねーかよ」
「だから潤くんごめん〜」

酔っ払いは言葉を選ぶこと知らないからやなんだよ!
正直過ぎんだろ。
謝れば何言ってもいいわけじゃねーぞ。

「今なら潤くんの気持ちすごいわかるよ、何言われても好きなもんなんだねぇ〜」
智は子供が「うわーん」って泣くみたいな大げさな顔で腕にしがみついてくる。

「うっさい同情した俺が馬鹿だったわ。独りで寝ろ」
「やだやだ今日はひとりにしないでぇ〜」


『どうしても埋まらない何か』を埋めてやってる想像を
1ミリでもしてしまった自分をぶん殴りたい。
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