「・・・俺はね」
潤くんはゆっくり、言葉を選ぶように話し始める。


「翔くんと別れさせたいとか・・・そんなことがしたいんじゃないんだ」

俺は口を手で覆った。

嗚咽が漏れてしまわないように。
・・・潤くんの唇の熱が逃げてしまわないように。

「じゃあ今更何って・・・そう思うよね」

「なんかさ、なんか翔くんといるときのお前がたまにすげぇ辛そうで・・・
なんで俺ならもっとお前を幸せにできるのにって
なんであの時別れようって言われて受け入れちゃったんだろうって」

胸がずきずきする。


「・・・これだけ教えて」

「なんで俺と別れたかったの?」


『なんで』?
だって潤くん、俺はあの時まだ全然恋愛なんかしたことなくて
こんな気持ちになるのが初めてで。


「俺・・・俺ね潤くん」

きゅって潤くんが唇を噛んだ。


―――俺潤くんといると怖いんだよ。

感情が抑えられなくなりそうで。
あの時も潤くんが相葉さんに取られちゃうって思ったら
苦しくて・・・悲しくて・・・自分が自分じゃなくなるんだ。

あんな気持ち初めてでそれが怖くて。

『行かないで』

その言葉が言えなかった。

胸が張り裂けて体がバラバラになっちゃいそうで。

行かないで。
俺のことどうでもよくならないで。
俺より大事な人を見つけないで。

口に出すのが怖かった。
口にしたらどうなるのかわかんないから。
冷静な俺でいられなくなるから。

怖かった。逃げたかった。
そんな自分から、そんな気持ちにさせる潤くんから。



「・・・和也」
ぼろぼろと泣く俺にまた潤くんは頭をぽんぽんってして。

「翔くんにはそういう気持ち、ちゃんと言わなきゃ駄目だよ」

そんなこと言われると思ってなくて俺は潤くんを見上げた。

「それが言えたらね、きっと辛くなんてないから。・・・言わないから辛いんだよ」

俺はこの目に弱い。
俺には優し過ぎる。

「俺も『別れたくない』って言えばよかったな」
潤くんは冗談ぽく笑って言うからそれがまた胸を締め付けた。


「和也は今翔くんが好きなんだよね」

もう俺たちはとっくに終わってるんだよね。
それはお前が決めたことで、
それは俺も決めたことだから。


・・・言い聞かせるように潤くんはそう言った。