「昨日はあれから楽しんだ?」


ロケバスの中で潤くんは台本に目をやりながら話しかけてきた。

・・・だから二人の収録はいやなんだ。


「翔くん急いで帰ってったから。会ってたんでしょ?」

「・・・うん」


―――イライラする。


「翔くんとやった?」


なんでそんなことお前に言われなきゃなんないんだよ。

お前と翔ちゃんはもう終わったんだろ?

そう言ってやりたい衝動に駆られる。


「・・・やってないだろうね、その調子じゃ」

潤くんはパタンと台本を閉じる。


我慢出来なくて俺は口を開いた。

「潤くん、もういい加減に翔ちゃんのこと忘れてよ。翔ちゃんは今俺と付き合って・・・」

「忘れるのはあんたの方だよ!」

いきなり大声を出されて俺はびっくりした。


「昔の男引きずってんのはあんただろ?」

「な・・・」


「気付いてないの?」

潤くんの目が、知らないはずの俺の過去を見透かす。


「翔くんにあんたの元彼を重ねるのは残酷だって言ってんだよ」


・・・潤くんは何を言ってる?


「あんたが好きなのはそいつであって翔くんじゃない」


そんなわけないじゃん。


「いい?翔くんは翔くんひとりだ。あんたの元彼じゃない。身代わりにするなら他の男にしろよ」


言い返したいのに、言い返せない。


「俺が好きなのは翔くんなんだよ。・・・そんな気持ちで付き合ってんなら俺に返してよ」



そんなつもり・・・


・・・ほんとに・・・なかった?


いつでも俺はあの人と翔ちゃんを比べてた?

あの人と一緒だ、とかここは違う、とか。



翔ちゃんが構ってくれて嬉しいと思ったのは


翔ちゃんと一緒にいて幸せだと思ったのは


―――理由も言わず離れていったあの人が


もう一度、俺のところに戻ってきてくれた気がしたから?