恋とも呼べない、俺の話。





「で、ニノはどうなの最近?」

酔った勢いなのか、普段はしないのに何故かメンバーで恋愛トークになった。


俺の隣の隣。

会話しづらい位置に座るニノに、目の前の翔くんが質問する。

俺は動揺を隠しつつもわざとらしく興味ある風に身を乗り出した。


「えー、私ですか?うん、まぁ、ねぇ?」

「なにそれ。うまくいってんだ?」


きゅうっと、胸の奥が痛む。


俺は1/3ほど残ったビールを流し込み、

「なになに?いつの間に彼女できたの?」

と話に加わった。


聞きたいようで、聞きたくない。

知りたいようで、知りたくない。


「ちょっと前ですよ。・・・うん、でも多分もう終わりますね」

「えっ早っ。なんで!?それもう3人目とかじゃない!?」


どこかでほっとしている自分。

その理由を、こう言って欲しい。



『だって俺はやっぱり潤くんが好きだから』



―――あの夏、俺たちはきっと・・・・・・。



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「あっちーね潤くん」

「あっちーなカズ」


夜なのに寝ぼけた蝉がうるさくて、街灯には小さな虫がアホみたいに群がってる。


「早くガンッガンクーラー効いた部屋に戻りましょ」


酒が足りなくなって買出し行って、なんだか楽しくて俺たちはどちらからともなく手を繋いだ。

それは恋人のそれではなく、きっとメンバーの、仲間のそれなんだろう。

そう思っていた。

いや、そう思い込もうとしていたのかもしれない。


明け方カズが雑魚寝でいっかってブランケットを一枚差し出し、二人で掛けた。


うつ伏せで、少しこっちを向いて目を瞑るあんたを俺は薄目で見ていた。


・・・その目がふと動いて、ゆっくり俺を見つめた。



俺たちは、どちらからともなく顔を近づけ・・・・・・キスをした。



それ以上のことなんてない。


笑いもしないし言葉も交わさなかった。


ただ、それだけだった。



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あの夏の暑さはもう忘れた。


あの夏の想いももう忘れた。


あまりに自然すぎて、あまりに不自然だった。



俺には今大切な恋人がいて、あんたも新しい恋を始めてる。


それでも俺にはあんたが特別で、あんたにも俺が特別だって思っていてほしいんだ。



始まりもしないし終わりもしなかった、恋とも呼べない俺の話。