いつも俺のワガママを聞いてくれる彼女。
今日は、そんな彼女にサプライズを仕掛けようと考えた。
約束の時間に電話をしてみる。
「ごめん、今日行けなくなった。仕事が長引いて…。」
『うん、分かった。お仕事頑張ってね。あっ、友達から電話だから切るね。』
そう言って電話は切れた。
その一連の行動をずっと見てた。
(友達からの電話なんて、ないじゃん…)
待ち合わせ場所から家に帰ろうとしている彼女の後ろを付いていく。
どこで驚かそうかと考えていると、家とは反対方向に歩いて行く。
(どこに行くんだ?)
彼女は、飲み物を2本買って公園に入っていきベンチに座った。
(夜の公園に1人?誰か来るのか?)
おもむろにビールを開けて、飲み始めた。
お酒強くないのに、かなりの勢いで飲んでいく。
『おっ、いつもの猫ちゃん。今日も慰めてくれるの?』
側から見ると猫に話しかける酔っ払い。怪しい奴だ。
『また仕事なんだって。人気者だからさ、分かるんだけど…いつもいつもいい人演じるのも疲れちゃったよ~。』
(そんなこと知ってるよ…)
『もう辞めようかな~、彼女。私のこと気になるって言う人もいるし、同じ職場だからいつでも会えるから淋しくないし…。』
(えっ⁉︎そんな話、俺知らないぞ。)
『翔ちゃんのバカ~。このままほっといたら、他の人のところ行っちゃうからね~だ。』
その時、彼女の電話が鳴った。
『もしもし、大丈夫ですよ。あ~…彼とのデート、キャンセルで。今からですか?特に用事はないんで、いいですけど…公園で1人で飲んでますよ。場所?…』
(おい、ソイツが来るのか?ヤバイだろ…)
彼女の背後から、電話を取った。
「コイツの彼氏です。到着したんで。」
怒って電話を切った。
『翔ちゃん⁉︎仕事は?なんで、ここにいること知ってるの?』
「はっ?猫に話しかける怪しい酔っ払いを見つけたから…。」
(こんなこと言うんじゃない。)
「てか、今の電話は誰ですかね?俺のこと、バカって言ったよね?」
『いつからいたの?』
「待ち合わせ場所からずっとついてきて、驚かそうと思ったら…猫と話してるし、俺の悪口を‼︎ていうか、誰?職場の人?俺をやめて、その人にするって?」
『…』
無言の彼女。隣に座って、残っていた飲み物を飲み干した。
「そんなことできるの?」
『…できるもん。いつでも会えるし、淋しくないし…』
「無理だろ?てか、俺が無理。俺がお前といたいから、無理。」
『翔ちゃん?』
俺は、彼女を抱きしめて話を続けた。
「知ってるよ。お前がいつもムリしてること。いつも我慢しているのも。俺は、それに甘えてたのかも。いつも淋しくさせて、ごめん。」
ほんのり胸の辺りが冷たく感じる。
「なあ、このままだと風邪引いちゃうよ。お前の家帰ろう。今日は、泊まって行くよ。あっ、ホワイトデー忘れるところだった。これ。いつ来てもいいから。淋しくなったら、おいで。俺も帰ってお前がいてくれたら、嬉しいし。」
『ごめん、翔ちゃん風邪ひいちゃうよね。早く行こう。』
いつも自分より俺を優先してくれる彼女。
お前の淋しい気持ち知ってたよ。だって、俺も同じ気持ちだったから。