なんであの時、ドキンとしたんだろう。
テレビの収録が始まったスタジオの裏で。
俺はじっと大野さんの動きを追っていた。
レギュラー番組の始めに、新曲の歌撮りがあった。
大野さんが主演の映画の主題歌。
その振り付けは、大野さんがしたらしかった。

「大野さんの感性はやっぱりすごいな。」
隣にいた、相葉さんのマネージャーで先輩の塚越さんが言った。
収録が始まるまでは、メンバー同士振りの確認や楽しそうな雑談があって、大野さんも少し猫背で、眠そうにしながら柔らかい笑顔をメンバーに向けていた。
なのに、スタンバイ!の声がかかると同時に、見たことのない顔になる。

印を組む綺麗な指。
スッと姿勢よくなった背中。
そして何より。
端正で真剣な表情。
他のメンバーももちろんそうだけど。
俺はそんな大野さんの動きに目が離せなかった。

アイドル、と呼ぶにはあまりにも凛々しいその顔が、さっきの幼い寝顔とのギャップについて行けなくなる。
途中、誰かが動きを間違えた。
カットがかかり、大野さんの集中がぷつんと切れる音がしたような気がした。

「ごめん、智くん!」
翔さんが間違えたみたいだ。
相葉さんともう一度振りを確認してるあいだ、大野さんがふと、こちらを見た。
視線が繋がる。
すると、ふにゃ、と俺を見て微笑んだ。
俺はどうしていいのかわからなくて、不器用な笑顔を彼に向けた。

「二宮くん。さっきの件だけど。」
塚越さんがそう話しかけてくるまで、俺は大野さんから視線を反らすことができなくて、1人焦っていた。

「ハイ!OKです!!」
無事に歌撮りが終わると、メンバー同士、ハイタッチしながら俺たちマネージャーのいるほうに捌けてきた。
用意されていた長テーブルについて、お菓子やコーヒーを飲んだりしながら、仲良く話し始める。
そんな様子を見ながら、
「大野さんに彼女…珍しいね。」
塚越さんが離れた場所でそう言った。
「珍しい?」
俺が聞き返すと、
「あまり積極的なタイプじゃないからね。」
「…わかる気がします。」
塚越さんの答えに、俺も賛同した。
「かわいそうだと思う?」
「えっ?」
突然の言葉に、思わず聞き返した。
「俺はね、かわいそうだと思うんだ。それが仕事ってわかってても、同情したくなる。それくらい、メンバーみんな、いい人だからね。」

いい人、だから…?
同情?

わからない戸惑いに、俺自身気づいていなかった。
顔が熱くなるのがわかる。
なんだこれ。

「あ、そうだ塚ちゃん!」
不意に相葉さんの声がして、俺の思考は一旦停止した。
「今日はまだ仕事あったっけ?」
「CMの撮影が入ってますよ。」
塚越さんがマネージャーの顔に戻ってそう答えた。
「そうなんだ?ちょっと後輩の子にご飯誘われたんだけど、行けそうかな。」
「ギリギリでしょうか。」
「ふーん。わかった。メールするわ。」
相葉さんはそう言って、携帯を取り出して操作していた。
「雅紀、最近多いな。面倒見がよすぎるんだよ。」
翔さんが苦笑いしてる。
潤くんはこの後の収録の打ち合わせに席を外していた。
大野さんは、少し疲れた顔をしていたけど、甘いものを口にしながら、時折相葉さんと話してた。

「俺、どのタイミングで社長に報告するんですか。」
そんな大野さんを見ながら、塚越さんに聞く。
スキャンダルは初めてだ。
「この後事務所に電話して。マスコミにかぎつけられてないか情報収集だな。」
塚越さんが教えてくれる。
「相手は誰だったの?」
「たぶん…共演した女優さんかな?名前はわかんないです。」
「二宮くんはあまり詳しくないんだね。」
塚越さんが笑う。
「すみません…パソコンとゲームが彼女だったので。」
「これからイヤでも、詳しくなるさ。」

…興味ないんですけど。

そう思ったけど、黙っていた。
「スキャンダル回避は、マネージャーの腕次第だからね。早ければ早いほど、優秀なマネージャーと呼ばれる。頑張れよ?」
時々、ゲストの俳優や女優さんがメンバーに声をかけに来ていた。
今回のゲストは、同じ局のドラマの共演者たち。
「こういう、ちょっとした声掛けで始まることも少なくないから。」
ちゃんと見ててね。
塚越さんの言葉は穏やかだったけど、見つめる目は鋭かった。






AD

コメント(4)