出会いは、夏の暑い日の午後。
中途採用された会社は、初めての芸能事務所だった。
「あなたに担当してもらうのは、嵐の大野智。よろしくね。」
日本人なら知らない人はいないだろう、ジャニーズ事務所が、今日から俺の働く会社だ。
そして、担当になったのが。

「嵐の…大野さん?」
俺は自分の耳を疑った。
まだ入ったばかりの、ノウハウもよくわかってない俺に、事務所でいま一番有名なアイドルグループ、嵐のメンバー、リーダーでもある大野智の名前を聞いて、
「俺で大丈夫なんですか?」
思わず聞き返したのも無理はない。
社長は涼しい顔をして、俺を見つめた。
「できれば、マネージャーじゃなく、メンバー入りしてもらいたいのに、あなたは頑なにそれを拒むから。なら、あなたに任せるしかないじゃない?」

社長…それ、説明になってません。

心の中で冷静にツッコミを入れる。
確かに、この会社に入ったきっかけは、街の中でのスカウトだった。
30歳を越えた男をスカウトするなんて、しかも声を掛けられたのは、芸能界とはさほど縁のないオフィス街だった。
俺はプログラマーの仕事をしていた。
仕事で得意先に向かう途中、全身黒づくめのスーツの男に声をかけられて、最初はちょっとビビった俺。

話しを聞くだけでいいから、と、後日また落ち合う約束をして(させられて?)、来たところが、このジャニーズ事務所だった。
正直びっくりした。
こんな大手の人に声を掛けられたことに。
社長室にいたのは、やり手そうな女社長。
そこで、いろいろ話している中で、

「え?あなた34歳なの!?」
と、社長が大きな声を上げた。
俺をスカウトした、マネージャーである彼も目を丸くしていた。
「……見えないわ、全然見えない。20代前半でも若いくらいよね。」
「……ですね。私もてっきり大卒の新入社員かと思ってました。」
失礼なくらいジロジロ見られながら、俺はそれまでやっていた仕事にも限界を感じ始めていた時で、何となく、入社してもいいかな、と思ってしまって。
『マネージャーとして』というのを条件に、入社することを決めた。

そして、一通りの研修が済んだ、今日の社長との契約の日。
どんな人をマネージメントするのか、有名な芸能事務所だけに、ちょっとドキドキしながら社長室に入った俺に告げられた、その担当の名前。
「彼、自分のペースを大事にしてるけど、ちゃんと仕事のできる子だから。」
その説明は、何ともうやむやにしか聞こえなかったけど。
『マネージャーとして』。
という条件を飲んでもらったのだから、精一杯頑張ろう、と、俺は目の前の先輩マネージャーと同じ、黒スーツ姿で頷いた。
そして、正式契約が済むと、先輩マネージャーの塚越さんが俺を嵐に会わせてくれることになって。
「頑張ってね。」
ひらひらと手を振る社長に一礼すると、社長室を後にした。

「メンバーはいま、レッスン室のはずですので、行きましょうか。」
嵐のメンバーは4人。
リーダーの大野智、1つ下の櫻井翔、2つ下の相葉雅紀、3つ下の松本潤。
社長室のある階の下、ガラス張りのレッスン室で、ダンスのレッスンを受ける4人がいた。
本当に、本物だ。
あまり芸能人に詳しくない俺だけど、さすがにこの4人は知っている。
国民的アイドルグループ、嵐。
そのメンバーと一緒にこれから働く。

レッスンの区切りがつくのを待って、4人の動きが中断すると、塚越さんに背中を押されてレッスン室に足を踏み入れた。
「お疲れさまです!」
塚越さんの声が響いて、
「おー、塚ちゃん!」
相葉さんが塚越さんを呼んだ。塚越さんは相葉さんのマネージャーだ。
「今日は、新しいマネージャーを連れてまいりました。大野さんのマネージャーになります、二宮和也です。」
「え?おいら?」
流れる汗をタオルで拭きながら、呼ばれた大野さんは俺を振り返った。
それが、俺と大野さんの出会い、始まりだった────。