『存在のすべてを』

塩田武士 著

(朝日新聞出版・2023年9月・図書館)

 

 

平成3(1991)年に神奈川県下で発生した「二児同時誘拐事件」から30年。

当時警察担当だった大日新聞記者の門田(もんでん)は、令和3(2021)年の

旧知の刑事の死をきっかけに、誘拐事件の被害男児の「今」を知る。

彼は気鋭の画家・如月脩として脚光を浴びていたが、本事件最大の謎である

「空白の三年」については固く口を閉ざしていた。

異様な展開を辿った事件の真実を求め、地を這うような取材を重ねた結果、

ある写実画家の存在に行き当たるが・・・。

 

 

 

今年の本屋大賞、3位になった作品です。

予約に出遅れて、読むのが今になってしまいました。

 

分厚めの本だったので手こずるかと思いきや、全くそんなことなく

先が気になってグイグイとページが進みました。

 

30年前に起こった連続誘拐事件、二人の男の子が続けさまに誘拐され、

一人はすぐに帰されるのですが、もう一人、4歳で誘拐された内藤亮くんは

3年後、7歳の時に祖父母の元に無事に帰されます。

しかしその3年、どこで何をしていたかは謎のまま「空白の3年」となり

犯人も見つからないまま未解決のまま時効を迎えます。

 

当時、駆け出しの記者だった門田は、事件で被害者家族のフォローを

担当していた中澤と旧知の間柄でしたが、中澤が無念の思いを残したまま

亡くなったことをきっかけで改めて事件を追います。

 

冒頭は中澤の目線で30年前の事件が描かれ、

主に門田の目線で現在、改めて調べ直す様子が描かれ、

終盤は「空白の30年」のことが明かされ、

ときおり、亮に思いを寄せる同級生で画廊の娘・里穂の目線で描かれます。

 

色々な人の立場で描かれ、また時系列も前後するために、

とっても重厚な作品となっております。

わずかな手がかりから全国を飛び回る門田の執念、

写実画家として生きる画家と画壇という特殊な世界の在り方、

そして家族の絆、

終盤、(ネタバレになるので詳しく書けませんが)涙腺が緩みっぱなしでした。

 

亮の実の母は今でいうネグレクトの許せない母親でしたが、

人として未熟だったゆえの悲劇かなと思ったりしました。

 

力作でした。