2人のフリードマンの功罪 | あらやす日(本)誌

2人のフリードマンの功罪

この二人は師弟関係か親子だろうか?
名前だけでなく、その主張もよく似ている。
実際、無関係な二人だが。


一人目のフリードマンはトーマス・フリードマン(1953年~)。
ピューリッツアー賞を3度受賞したアメリカのジャーナリスト。
著書の「レクサスとオリーブの木」で、
国が富み、中流階級が多くなってマクドナルド(ハンバーガーの店)が出店する国では戦争は起こらない(マクドナルド理論)と述べる。
これは一理あるものの、アメリカ企業の進出=アメリカ化によるグローバリゼーションに逆らえば戦争がおきるというような脅迫的な意味合いにも取れる。
1999年、コソボ紛争時にセルビアをアメリカ軍が空爆してこの主張はくつがえされた。というのはセルビアにマクドナルドが出店していたからだ。とはいえ、マクドナルドが単なる「中流階級社会」の比喩だと見れば、そう言葉尻をとらえて批判する必要もないわけだが。

もうひとつの著書「フラット化する世界」では、
冷戦終結後の世界観として自由主義を基調にしたアメリカ中心主義的な均質的なグローバリゼーション=「フラット化」の到来をとなえた。
しかし、
現代は「セミ・グローバルの世界」(Pankaj Ghemawatハーバード大学教授の著書)。宗教、民族、個々の国の文化・慣習が国際規格のように一つに強制的に統一しようとすればさらに対立は際だって行く。


もう一人のフリードマンは、
ミルトン・フリードマン(1912~2006年)。ノーベル賞を受賞したアメリカの経済学者。
前者のフリードマンはあまり有名ではないがこちらのフリードマンは世界的に有名な学者。

内なるアメーバを探して-Milton Friedman


M.フリードマンは、
英米社会を象徴していた(もはや過去形か?)ある種の秩序に強力な思想的裏付けを与え、レーガン、サッチャー政権時代の政策に大きな影響を与えた。
フリードマンは最小の政府で最大の個人的自由を標榜し、
政府による広範囲な市場の統制・規制を否定し、
新自由主義と市場原理主義の信奉者の精神的支柱だといえる。

しかし、
結果的に、間接的にサブ・プライム・ローンなどの金融恐慌のもとをつくる金融商品を生み出し、
民間保険会社の利権を守るために国民皆保険制度の議案をつぶす理論的支柱にもなる。
『資本主義と自由』(1962年刊行)では、廃止すべき政策の一つに、「営利的な郵便事業の廃止」をあげたが、フリードマン的な政策の信奉者だったと思われる小泉・竹中政権下では、「非営利的な日本の郵便事業」を営利的な民間事業にしてしまった。


二人のフリードマン(Friedman)は、
アメリカ的に”Free”ed man =自由化された人であることを理想として、
アメリカが起きた911テロとサブ・プライム・ショックの背景を構成する思想を社会に与えた人物だったのではないかと思う。


地球上の生命が多様性の中で環境に対応して進化してゆくように、
人間も一生命体として多様性を謳歌することで進化してゆくのだろう。
「自由」はその進化論的な弱肉強食の中で他者の「自由」を奪う。
そして、環境を破壊する過激な行為は逆に自分の首をしめつける。