ベルファスト | あらかんスクラップブック

あらかんスクラップブック

60代の哀歓こもごも

ピーナッツバターを買いにいって、ランチを外で食べようと思ったが、気が変わって、映画館に行った。

「ベルファスト」という北アイルランド紛争が背景になっている子どもが主人公の映画、なんか現在のウクライナ、祖国を追われる子どもたちとシンクロする。 去年のアイルランド・イギリス合作映画だし、ウクライナとは何の関係もないが、重い先入観をもって座席についた。

アイルランド紛争は、ベルファスト合意で落ち着いているとはいえ、タイトルも舞台も北アイルランドの首府であるベルファストだし、 いきなり1969年8月15日。ガ~ン! 鉄パイプをもったテロリスト集団が、路地を走り抜けて、街を破壊する。

ウクライナ、街の日常の生活に、空から爆撃弾…やっぱシンクロする。

 

主人公の10歳の少年バディお母さんと兄と住んでいる貧乏人が住む街。学校に通い、憧れのキャサリンという成績のいい女の子がいて、バディはその子の隣に座りたくって勉強をがんばるのだ。 放課後にはごみ箱のフタと棒を両手に持って戦争ごっこ? 日本で言えばチャンバラみたいなものか? 

家は貧しくて、長屋暮らしでトイレは外の掘っ立て小屋。ドアはなくて、近くに住むおじいさんは、トイレに座ったまま、世間話をしている。

 

冒頭の襲撃事件は、プロテスタント過激派によるカソリック住民の住宅や店の襲撃なのだが、主人公一家はプロテスタント。 カソリックとプロテスタントが仲良く暮らしている通り。憧れのキャサリンはカソリック。

プロテスタントVS カソリック、さらにアイルランド側のナショナリストVS グレートブリテン側のユニオリストという対立。もちろん、子どもにそんなことはわかるはずはなく、この映画はそのような対立とは関係ない子どもの世界から描かれている。

 

宗教で分断され、壊されたベルファストに住み続けるかどうか、一家でも考えがちがう。ロンドンに大工で出稼ぎに行って、2週間に一度しか戻ってこないお父さんは、ロンドンへの移住を強く望むが、生まれも育ちもベルファストのおかあさんは違う国での生活には不安で、バディもこの街を離れるのは絶対反対。近くに住む祖父母は住み続けるという。

ウクライナでも、成人男性を残して、家族が避難のため国を離れるか、それとも留まるか…、人道回廊も実現できない情勢で、ひとつひとつの家族がつらい決断を迫られたのだと思うと、またもやシンクロ。

 

この映画で、描かれているのは紛争ではなく、家族だ。バディの家族は素晴らしい。子どもだからと押しつけず、ちゃんと向き合う。 

「カソリックは、悪いことをしても懺悔をすれば神様に許してもらえるから、悪いことを平気でするというのは本当?」と、バディはお母さんに聞くが、お母さんは「宗派がちがうだけ」と否定する。

お父さんはプロテスタントの過激派から誘われても断わり、命を狙われることになる。バディから「キャサリンと結婚したいんだけど、カソリックだから…」と相談されると、「カソリックでもプロテスタントでも、反キリスト教でも、ヒンズー教徒でもなんでもいい。やさしくてフェアでお互いを尊重できれば結婚できる」と答えるのだ。

おじいさんは、「イギリスに行くと、言葉が通じないし、差別されるから行きたくない」というバディに、「わしは、おばあさんと50年もいっしょだが、いまだに言葉は通じないよ」と答え、「言葉が通じなくても、一生懸命話し続けると、理解してくれるもんだ。」と安心させる。

おばあさんは、快活で明るい。観てるときはわからなかったが、ジュディ・デンチなんだ。もう~、大好きな女優。

この映画、北アイルランドの歴史や対立関係は、あらかじめ知っておいたほうが、理解できると思うが、大人がやっている戦争の理由や主張は子どもには理解できない。 ウクライナでもなんで殺し合いをするのかということを追及せず、戦況分析ばかりをあれこれ詮索している日本の報道がバカらしく思えてくる。

 

監督のケネス・ブラナーの半自伝的映画。バディと同じベルファスト出身で、9歳のときにイギリスに移り住んだ。 でも、その苦労を俯瞰的にではなく、子どもの目を通して描く。 紛争ではなく、愛おしい街と家族。

音楽のヴァン・モリソンのメロウな曲にも、たまらない。

 

 

出演した俳優は、すべてアイルランド人だそうだ。

モノクロ画面は、残酷な画面のリアルを否定し、カラーの画面は、映画のスクリーンや芝居やTVに限られている。観ている家族は大喜びで、幸福そう。

アイルランド、北アイルランド、スコットランド…。もとはケルト人の国。同じ民族。なぜ、対立するのか? 殺し合ってきたのか?

イングランドが悪いのか? ヘンリー八世のせいなのか? 

アイルランドの今の平穏は奇跡だ。奇跡は、この映画ではカラー画面。

 

ウクライナの街を廃墟にし、子どもまで巻き添えにし…。こんな悲惨なことをどうして終わらせられないのか?

ウクライナとかぶってくる映画ですが、ほのぼのとした映画です。心が温かくなるので、ぜひ観てください。先日のアカデミー賞は脚本賞でした。

ほっこりしたら、ウクライナのモノクロになった街をカラーにする「奇跡」についてかんがえてみてください。

 

映画の最後は、こんな言葉で締めくくられています。

残った者たち、去っていった者たちへ。

そして、命を落した者たちへ捧ぐ