今の従軍慰安婦問題 | あらかんスクラップブック

あらかんスクラップブック

60代の哀歓こもごも

8日、韓国のソウル中央地裁が、旧日本軍の元従軍慰安婦に対する賠償を日本政府に命じた。 12人の元従軍慰安婦の原告に対し、1人当たり1億ウォン(950万円)の支払いを求める判決。

加藤官房長官は、「(判決は)断じて受け入れられない」とすぐ、韓国政府に抗議した。

 

 

「あぁ、またか。くすぶっているね」と、なんとなく不愉快な思いをしている人が多い。 それに、従軍慰安婦のハナシは、家族や周辺の人と気軽に話す話題でもない。めんどくさいやつだと思われるだけ。

 

80年近く前のことなど、もう考えなくていいんじゃないかと思っても、

「くすぶりつづけている」ということは、現在の問題なのだ。

戦後、この問題がどう扱われてきたかくらいは知っておきたい。 私も改めて確認してみた。

 

よく、日本が韓国を植民地にした時代の謝罪や賠償は、1965年の日韓基本条約と請求権協定で解決済みといわれる。 補償金をだしたのだから、いまさら金のことでグズグズ言うな…なんて、今どきの高校生が言う。 当時の韓国政府が自国の戦争被害者にそのお金を使わないで、他に使ったんだろうなんてことを言う人もいる。

 

従軍慰安婦問題は、1991年に被害当事者の衝撃的な証言が出るまでは、私たちも知らなかったし、政府も手をつけてこなかった。

元従軍慰安婦たちが、日本政府に保障を求めて、日本の裁判所に提訴した。この慰安婦問題は、国家が犯した人道的な犯罪問題で、謝罪と賠償を求められた。

 65年の請求権の植民地時代の経済的損失では解決できない問題とされ、それを受けて、当時の宮沢内閣が調査をし、

1993年に河野洋平官房長官が談話を発表(河野談話)。

「慰安所は当時の軍当局の要請により設営され、その設置、管理、慰安婦の移送については、旧日本軍が直接、あるいは間接に関与した。

慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が当たったが、その際に、甘言、強圧など本人の意思に反して集められたり、官憲などが加担したこともあった。」

そして、「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた。心からのお詫びと反省の気持ちを表明する」

これが、日本政府の公式見解とされた。

 

1995年には、閣議決定を受けた村山富市首相の戦後50周年の

村山談話植民地支配と侵略によって諸国民に多大の損害と苦痛を与えたことを再確認し謝罪を表明。

民間団体や個人から募金をし、元従軍慰安婦に一時金を払うという

「女性のためのアジア平和国民基金」を発足させた。

 

以後の歴代内閣は河野、村山談話を堅持してきた。が…、

 

2012年の安倍晋三内閣は、河野談話の見直しを繰り返し表明し、調査チームを発足させた。靖国神社参拝、憲法改正、尖閣諸島問題で緊張が強まったこともあって、慰安婦問題が日韓で再び問題化する。

 

国際社会では、国連人権委員会のタマラスワミ報告もあり、従軍慰安婦問題は女性の普遍的な人権問題であるとの見方が、完全に定着している。

 

2014年、アメリカのオバマ大統領は、米日韓の首脳会談(韓国は朴槿恵大統領)をやり、安倍首相は、「安倍内閣で河野談話を見直すことはしない」、「歴史に対してわれわれは謙虚でなければならない」、「慰安婦問題については、筆舌に尽くしがたいつらい思いをされた方々のことを思い、非常に心が痛む」と発言する饒舌ぶり。

 

2020年、スガ政権は、「河野談話は見直さない」としているが、今回の判決に対しては、「強い懸念」を示している。
いくら強い懸念を示しても、「少女の像」が世界各地で受け入れられているのは、人道上の問題として日本政府がきちんと認めていないのではないかと思う。
 
 
私たちは、韓国の人たちに対して、「従軍慰安婦のことは聞かないで。それは私の責任ではないし、私は国の代表ではない。国がどんな仕打ちをしようと、私が負うべき責任ではない。迷惑なんだよ」と言えるだろうか? それほど、戦争中の韓国の状況、従軍慰安婦とされた女性たちについて考えたことがあるのだろうか?
今も心が痛むとすれば、なぜか? 戦後50年もこの問題を語ることができなかった元従軍慰安婦の女性たちは、「敵に身体を許すなんて」と、自国の儒教的価値観に二重に迫害を受けていた。
侵略した側の私たちの戦争中の日本の銃後の女性たちは、直接従軍慰安婦と関係なかったかもしれないが、日本帝国主義や軍に加担していたわけだし、罪はなかったのか?
  

上野千鶴子 「ナショナリズムとジェンダー」

岩波現代文庫 1240円(税別)

 

今、驚くことに、歴史修正主義により、「従軍慰安婦はいなかった」というのがはびこっている。 「迷惑なんだよ」という見捨てるような気持ちは、 戦争中の性暴力犯罪、戦後当事者の沈黙をしいてきた、あるいは「かわいそう」というまなざしを向ける第二の犯罪につづいて、第3の苦痛を、告発した女性たちにつきつけている。
判決のニュースをきいて、ジェンダー的観点から10年以上も取り組んできた著者のとっておきの1冊を読んでみた。 買ってあったが、ナショナリズムも女性学もめんどくさい。両方をつなげるなんて、なんてしんどいんだろう。
読んでみると、長いけど、明晰で面白いので、2~3日で読めた。
慰安婦問題を自分の現在と引き付けて考えるために、必要な一冊だと思うので、紹介します。とくに女性におススメ。