大親友 | あらかんスクラップブック

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60代の哀歓こもごも

オシロイバナ

 

石垣りんさんは、1920年赤坂生まれの、チャキチャキの江戸っ子である。

14歳で、銀行に事務見習いで就職してから、55歳の定年退職まで、

戦争、家族、職場、ジェンダーや学歴、病気、貧乏…、生きることのしがらみに、がんじがらめになりながら、働きながら詩作を続けた。

生涯、詩集はたったの4冊。

 

「ひとり」で生きていくことの強さ、弱さ…。

「表札」という有名な詩の最後の決めセリフ。

 精神の在り場所も 

 ハタから表札をかけられてはならない

 石垣りん  

 それでよい

 

私は、その石垣のような強さより、以下のような弱音にむしろりんとした強さを覚える。

 

 

貧しい町 (現代詩文庫46 石垣りん詩集 思潮社)

 

 一日働いて帰ってくる、

 家の近くのお惣菜屋の店先は

 客もとだえて 

 売れ残りのてんぷらなどが

 棚の上に まばらに残っている。

 

 そのように

 私の手もとにも

 自分の時間、が少しばかり

 残されている。

 疲れた 元気のない時間、

 熱のさめたてんぷらのような時間。

 

 お惣菜屋の家族は

 今日も店の売れ残りで

 夕食の膳をかこむ。

 私もくたぶれた時間を食べて

 自分の糧にする。

 

 それにしても

 私の売り渡した

 一日のうち最も良い部分、 

 生きのいい時間、

 それらを買って行った昼間の客は

 今頃どうしているだろう。 

 町はすっかり夜である。

 

ビートルズの「A Hard Day’s Night」 みたいだね。

その頃、品川の借家に一家4人(母、弟2人)で暮らしていた石垣りんは、ビートルズの歌詞のように、家に帰ったら抱きしめてくれる家族がいたのだろうかと思ってみたりする。

 

ひとりで家族の生活を支え働く女に、女性詩人はとてつもなく優しい。茨木のり子と石垣りんは、生前、大親友だった。

茨木のり子は80歳、石垣りんは84歳で亡くなった。

 

今も、二人は詩をとおして、一人でがんばる女の大親友になってくれている…と思う。