福岡市JR吉塚駅前に、「竹乃屋」という複合居酒屋ができた。「竹乃屋」は、福岡市内では定評のある居酒屋で、35年の歴史を持ち、20店舗の居酒屋を経営する、株式会社タケノの店だ。この不況下にも関わらず、売り上げを伸ばし続ける飲食店経営会社のひとつである。
その「竹乃屋」が、吉塚駅前に新しく店を出し、非常に繁盛しているというので、まぁ、いわゆる「競合店調査」に行ってみた。JR吉塚駅前にある店に行ってみると、大変繁盛している。
以前の吉塚駅前といえば、たいそう暗いイメージがあり、博多駅の次の駅であるにもかかわらず、人通りも乗降客も少ないイメージがあった。
それが駅前ビルができ、ビルインのテナントが充実してきた事もあり、吉塚駅前の様相は一変し始めた。そして、最終的に吉塚駅前を「賑やかしい雰囲気」にしたのは、この「竹乃屋」のオープンであろう。
その竹乃屋。確かにお客様の入りはいい。
「よくお客様が入っているなぁ。」と思いながら、自分の店に行ってみた。
同じ時間で、自分の店も満席だったので、内心ホッとしながら、新店ができたにもかかわらず、我が店に来てくださるお客様に「ありがとうございます」と思いながら、歩き始めた。
今回、この記事を書きたいと思ったのは、「竹乃屋」の話をしたいと思ったからではない。別のとある居酒屋で体験した事を話しておきたいのである。
吉塚駅前の交差点に、一軒の「角打ち居酒屋」がある。店の名前は「むう」。
昨日初めて知ったのだが、この店の名前である「むう」というのは、オーナーである「みはる」さんと「ひかる」さんの頭の「M」と最後の「U」をとって、「むう」というらしい。(写真は「みはる」さん。※「みはるさんだったと思うけど、間違っていたらごめんなさい)
「むう」は、数年前に、近くに別棟を出し、今は、吉塚駅前に2店舗になっている。以前から気になっていた店なのだが、今回初めて店にうかがう事にした。メニューは、評判の「もつ鍋」を中心に、手作りのメニューが多い。
私は、まず、この女性が、オーナーである事に驚いた。最初見たときは、大学生かと思うようなこの女将さん。とにかく、目配り、気配りが素晴らしい。お客様一人一人と会話しながら、かといって無駄な時間を使わず、手際よく店内をラウンドしている。
居酒屋経営をしている女性オーナーというのに初めて会った。居酒屋経営は、単純だが大変でもある。
単純には、「食材の原価率+人件費率」が60%を越えることなく、そして、家賃の比率が売上の8%未満であれば、利益は出る。これが「単純な数式的居酒屋経営の法則」である。
しかし、それ以外に居酒屋経営には大変な努力を必要とすることもある。まず、料理の研究開発、そしてその価格設定、厨房内のオペレーション、食材の仕入れに、アルバイトスタッフの教育や労務管理。最後に何と言っても「夜間の営業」に伴う、「体調の管理」である。そして、焼き場に揚げ場、板場と厨房作業もやりこなすには、大変な労力がいる。
だから、居酒屋業界は「男社会」である場合が多い。特に古い体質の会社は、男社会が多い。「まずやってからものを言えや!」というような雰囲気が無言の支配をしている事がある。(かくいう私の会社もそうである)
であるので、この女将さんオーナーの存在には驚いた。そしてもっと驚いたのは、竹乃屋のことを聞いた時である。
私:「竹乃屋さんが駅前にできましたね」
女将:「そうですね!」
私:「影響ありますか?」
女将:「いえ、あまり変わりませんね」
私:「行かれましたか?」
女将:「いいえ~、まだ行ってませーん」
そう言って、にっこりと笑われたのが印象的だった。「影響が無い?そんなわけ無いでしょう」と思って見ていたのだが、はっと気づかされる事があった。
この店の女将さんは、「自分の店のお客様」を本当に大切にしている。お客として店に入ればわかるが、これだけ大切にされると、また来たくなる。応援したくなる。
私達は、自分の店の近隣に「競合店」ができると、すぐに「売上が落ちるのではないか」と考える。しかし、売上とはいったい何か?売上とはお客様であり、お客様の注文であり、お客様の満足料である。
競合が来たからといって売上が落ちると考えるのは、「自分の店のお客様を自分自身が信じていない」という事になりはしないだろうか。そして、自分自身のお客様に対する、常日頃からの接遇の自信のなさの現われではないか。
「むう」のこの女将さんのように、「目の前にいるお客様のことを本気で考える事のできる人」が、店に一人だけでもいいからいれば、競合が来たからといって、何も恐れる必要は無い。一旦は、そちらへお客様が流れたとしても、また必ずお客様は戻ってきてくれる。そのかわり、「自己満足」ではなく、それを裏打ちするほどの「接遇を行える人」が、店に存在しなければならないが・・・。
「自分の目の前のお客様を本当に大事にする」、
「目の前のお客様に本当に喜んでもらいたいと思う」、
「目の前のお客様に、本当に美味しいといってもらう料理を出す」、
その気持ちを忘れることなく、日々営業を行い、果てしなく続く接遇を、楽しみながら、感謝しながら、一人一人を大切に一日一日を過ごしていれば、競合店の出店など、恐るるに足らず、ではないか。