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crazy moon

拙い小説家です。
主に気象系様のパロディ小説を書かせていただいております。


よろしくお願いします。

「大野行政書士事務所」
目の前のガラス扉にはそう書かれている。
中では若い男女が言い争う様な声が...?

「だーかーら! だから俺は何もやっていない!!これは奴等の自作自演なんだ!そんなこともわからないなんて警察の目は節穴かっ!!」

「アンタは刑事ドラマの観過ぎよ!どっかのチャンネルでやってた執事の真似でもしてんの!?」

...?
これは入ってもいいのだろうか。
戸惑っていると中の若い男が気付いたのだろうか、扉を開けてくれた。

「あ、大野行政書士事務所です。なにかご要件でしょうか...あ、私、行政書士補助者の田村勝弘と申します」

...要件なくこんな所に来る人間はいないだろう...心の中で悪態をつきながら口を開く。

「...神楽龍平、だ。少し聞きたいのだが...特許侵害の弁護人を探しているのだが...ここではそう言う事は...」

「...と、...っきょ侵害ですか...それは訴訟ということで?」

「あぁ。訴訟を起こす準備として弁護人を探しているのだが...」


すると田村と名乗った男の顔がみるみるうちに渋くなる。


「特許侵害の...弁護人......あ、それでしたら、個人的な知り合いの弁護士に頼んで紹介していただきましょうか?」

...なにか、個人的な知り合いの、の部分を強調された気もするが...


「...よろしく頼む。そうしていただけると有り難い」

でしたら、と田村は立ち上がり、電話をかけだした。


「...あ、こちら大野行政書士事務所の田村勝弘と申します。本多先生、お願いできますでしょうか?」

どうやら知り合いの弁護士とやらに電話をかけてくれているらしい。

「え、ええ、分かりました。では少々お待ちください。」

そう言って応接室に入ってくる田村。

「お電話代わっていただきたいと言う事なので申し訳ありませんが変わっていただけないでしょうか...?」

...なんか、なんとも頼りない行政書士補助者だな...そんな印象を抱きながら電話を受け取った。

「お電話代わりました、神楽と申します」


『 弁護士会の綱紀委員会に勤めております、弁護士の本多修平と申します。弁護士の紹介と伺っておりますが、お間違えないでしょうか?』

...こちらの電話の主は田村と違ってしっかりしているな、という印象を受けた。弁護士会ならば尚更か。綱紀委員会というものはとんと検討がつかなかったが、取り敢えず紹介してもらえるらしい。
『では、どのような弁護士をお探しでしょうか?和解、無罪主張されるなら成瀬弁護士事務所を、訴訟等をされるのでしたら熊田弁護士事務所を紹介させていただきますが...』

「...では、熊田弁護士事務所の方をお願いします」

『畏まりました。先方の方には私から話を通させていただきますので、連絡先は田村の方からお聞きくださいませ。それでは失礼いたします。』

電話を切って返すと、一通の封筒を持って田村が入ってきた。

「こちらが熊田弁護士事務所の地図と住所、電話番号になります。」

俺はそれを受け取ると礼を言って大野行政書士事務所を後にした。

地図を頼りに辿り着いたのは「熊田弁護士事務所」。本多先生曰く、若い男らしいが...

「お待ちしておりました」

少し前髪が長く少しスーツを着崩した男が入ってきた。

「熊田弁護士事務所、所長の熊田正義です。」

そうやって名刺を出され、受け取って顔を見て驚いた。まるで昔の俺そっくりな顔をしている。

相手も目があって驚いたようで、ポカン、と口を開けて固まっていた。

「......あ...、えと、 警察庁特殊解析研究所の神楽龍平と申します。」

「え、警察庁?」

「あ、...はい。まぁ、...研究員、って奴ですよ。そんな逮捕権限とかないんで安心してください」

動揺したあまり、いらないことまで口走ってしまう。

「あ、そうなんすか。...じゃ、訴訟の件に行きましょうか。」

なんか、軽い。
...この人で大丈夫なんだろうか...

「じゃ、やっていきましょうか」

...やっぱり弁護士変えてもらいたい...
そう思った俺は口を開く。

「やっぱり、辞めます。もう一人紹介された...成瀬先生?のところに行きます」

「成瀬?...あの天使の弁護士とか抜かしてるやつか。あいつは無理だよ」

熊田はいきなり口調を変えたかと思うとペラっと紙切れを目の前に突き出してきた。
そこには『顧問弁護士 成瀬領』、と書かれていた。

「弁護士法第25条の3に記載されてんだが、受任している事件の相手方からの依頼による事案は受けられないことになってる。つまり、成瀬に依頼すんのは無理なんだよ。」

仮にも警察庁に勤めてんならそれくらいわかるだろ、と吐き捨てられる。

なんか人を小馬鹿にした態度が腹立たしい。
が、コイツに頼むしかなさそうだ。

「...わかりましたよ、じゃあお願いします。」

不承不承ながらも頼む事にした。

「にしても依頼人の前でそんな口調とは...本当に弁護大丈夫なんだろうな」

「...成瀬だけには、負けたくねぇ...負ける訳ねぇだろ......負けた時にはなんでも言うこと聞いてやるよ」

...私怨でもあるのだろうか...
成瀬の名前を出す時だけ、口調が余計に悪くなる気がする。社会適応レベルはそこまで低くないようだが...

そこまで考えて、職業病だな、と思う。
いちいち会う人会う人分析している気がする。

「ま、期待してるよ」

そう言って立ち上がった瞬間、交代人格[リュウ]が現れる時に似た感覚が身体を襲う。

「っ...」

「!?...ちょ、アンタ大丈夫か?!」

ガタっと椅子を鳴らしながら俺の身体を支える熊田。

「大丈夫...だ...」

辛うじて答えたものの身体が怠い。遠くなる熊田の声を聞きながら俺は気を失った。


...機械音が聞こえる。
病院特有の匂いが鼻腔をくすぐる。

「...ん...」

...真っ白な天井。
左腕には点滴のチューブが刺さっていた。

「...!目、覚めたか」

隣にはワイシャツのボタンを第3ボタンまで開けてノートパソコンに向かっていた熊田がいた。

「待ってろ、看護師呼んでやるから...」

そう言ってナースコールしようとする熊田の手を無意識に掴んでいた。

「もう少し、こうしててもいいか...?」

我ながらびっくりするほど弱弱しい声が漏れた。

「...わかった。満足するまでこうしててやるよ」

ぶっきらぼうに呟くと俺の頭を撫でる熊田。
意外にも優しい一面を垣間見た気がした。




「過労による睡眠不足ですね。」

波多野、と名乗った総合医はそう告げた。

「あまり寝れないようでしたら睡眠薬を処方しますが...どうなさいますか?」

睡眠薬か...あまり飲みたくないんだが...

「また倒れてもらったら困る。貰っとけ。」

後ろからふてぶてしい熊田の声が聞こえた。

「お連れさんはそう仰られてますけどどうされますか?」

「...分かりました、いただきます」

「それじゃ、とりあえず半月分処方しておきますね。」

熊田に押し切られる形で睡眠薬を貰う。



「車とってくるからここで待ってろ。」


会計を終え、病院を出ると熊田がそう言って闇に小走りで消えていった。

手持ち無沙汰になり、時計を見ると22時を過ぎている。思ったより長い時間眠っていたようだった。

「どうしようか。」

そう呟いた時、ヘッドライトを弱めながら一台の車が目の前に止まった。

運転席の扉が開いて熊田が降りてくる。

「乗れよ。送ってくから。」

送っていく...って

「待て、此処から最低でも二時間はかかるんだが。」

すると熊田は思いがけない事を言った。

「じゃあ、家来いよ、泊まる部屋くらいある。」

「は?...家...って...」

有無を言わさないようにだろうか、助手席に押し込められながら問い掛ける。


「家そこそこでかいんだよ。...親父の部屋とか客間くらい空いてるからそこ使え。」


電車でも帰るのは難しいだろ、と助手席のドアを閉められた。


...強引だ、と思いながらシートベルトを締める。


「...寝不足なんだろ、寝とけよ。」

安全運転で帰るからさ、そう言って熊田はCDをかける。


G線上のアリア、か。
落ち着く音楽に身を任せ、目を閉じた。


「...い、...おい、起きろ」


軽く肩を揺らされて目を覚ます。


「着いたぞ。」


そう言われて車を降りると意外と大きな一軒家が目の前にあった。

「大きい家だな。」

すると熊田は少し悲しそうな顔をした。


「...親父が死ぬ前に立てた家だからな」


...父親の部屋、というのはそう言う事だったのか...

少し感傷に浸りながら後を付いていく。


「そんな顔すんなって。」


俺の顔を見た熊田がそう言う。


「...いや、...早樹...前のパートナーのことを思い出したんだ。」


無残に殺された蓼科兄弟や白鳥君。
そして自らの手で殺した水上先生。
目の前で自殺した親父。
その記憶が溢れ出す。

「...?...お前も何かあったのか...」


深くは聞かないけどな、と玄関扉を開けて中に招き入れられた。

思ったより広い。


「...有り合わせでいいか?」


通されたソファで待っていると皿を持った熊田が入ってきた。
ジャケットを脱いでワイシャツの袖を捲っている姿が少し色っぽい。


「...あぁ、構わない。」


「まぁ、断られてもそれしかないんだがな」


笑いながら赤ワインとワイングラスも持ってくる。


「ま、飲めよ。」


そう言って注がれるワインをそっと口に含む。
途端に赤ワイン特有の渋みと香りが鼻腔に広がる。


「なかなかいいワインだな」


「ま、一人じゃ飲みきれねぇからな。」


そうやって煽るように飲む熊田。

手料理も、まぁ、なかなか美味いもんだ。
久々にまともな物を食べた気がする。


そうしているうちに二本目のワインも開けてしまった。


飲んでいる勢いから、殆ど一本半近く熊田一人で開けている気がする。



「...たく...なんで、相手が成瀬なんだよ...」


...酒に飲まれているのだろうか、やや呂律の回らない声で熊田が愚痴っていた。

「おい、もう飲むのやめろ...」

そう言ってグラスを取り上げると、ぽふっと胸元に熊田が倒れ込んできた。

「ちょ、...熊田?」


「...うぅ...きもち、わる...」


え、気持ち悪い...って...



「まて、吐くな、ちょ、トイレどこだよ!?」



焦って体を持ち上げると熊田を引き摺る様にして慌ててトイレに駆け込む。
無理矢理吐かせると少し楽になったのか、身体を預けられる。

あまり揺らさないように背中に背負うと二階
の寝室と思しき部屋に運ぶ。

そっと寝かせるとそっと立ち去ろうとして、後ろから引っ張られ少しつんのめった。



「も、少し、一緒に...」



譫言のように呟く熊田が何故か弱々しく見えてそこから動けなくなった。


続く