「てかLINEやってる?」がナンパ文句の時代、私の財産は財布とプリペイド携帯だった。

 
「LINEやってません、スマホありません」
色んな人に声をかけられたが、この決まり文句のおかげで脈なしと捉えられて引き下がって貰えた。
 
よく知らない男の家を転々として眠った。
みんな救いの手には見えなかったが、優しい人には見えた。
寝る場所とご飯が出てくるなら悪い人でもよかった。
 
とまあ、ここまで語ると男への嫌悪が募りそうな過去だが正気に戻るタイミングはあった。
 
私の話を真実と捉えた夜職スカウトが1人いた。
紙に電話番号を書いて渡された。
保険証の発行や寮のある職場について教わった。
 
私はその時「あれ?私って普通じゃないのかな?」と思った。プリペイド携帯はチャージしないと発信はできない。私は10円を拾わないと誰にも連絡は出来ない。
 
その時いろいろと腑に落ちた。
私は見ず知らずの人間に心配されるような存在。
いなくなったと思っていた友人や彼氏はこのプリペイド携帯が分断していた。
 
超ショックだった。どこかで自分が立派に生きている気がしていたから。
その場を飛び出して求人誌を読みに行った。記憶を頼りに実家の住所を書いてバイト採用された。
定期的な収入を手に格安スマホを契約した。
貰った紙に書かれた番号には連絡しなかった。
 
急に時間が進んでいると言う感じがした。
 
 
最近、インターネットに張り付いていると弱者男性やミソジニーという言葉を目にする事が増えた。
 
まるで「男は敵なんだ」と思うエピソードもある。女をフェミニストと揶揄する対立の構図まであるのだから、読み物としてもかなり仕上がっている。
つい読み漁ってしまう。
 
ただそれらを読んでも、私は性別を敵と思いたくない。
 
 
敵はいる。でも、枠にはめただけでは敵にしたくない。
幼少期に習った素直さを持って生きていきたいんだ。