昨日は四時ごろに眠くなったが全く眠れず、七時近くまでゴロゴロしていた。久しぶりに本を読んだり、文章を書いたりする疲れが少なからずあったので眠れると思ったが駄目だった。幸いにも仕事をしていないから規定通りの時間に起きる必要もないのでさしたる問題でもない。

 

 十五時頃に起床。

 

 今日は雨の予報だったのでポケモンゴーをする気も全くなかったが晴れていた。とりあえず原付でポケストップ周りをしてみるも空は灰色に近くなり、いつでも雨が降り出しておかしくない天気になったのでポケモンゴーを歩いてやるのは止めにして原付で長久手まで一回りしてほしのすなを貯めようかなと思った。しかし、北上緑地を過ぎ交差点を長久手へ左折すると原付が全く動かなくなってしまった。カタカタと何かが外れた音がする。今までにないことだった。シフトアップの際にブウンと音がすることがあったが、少し待つとすぐに変則に応えてくれたがそれもない。路肩に寄せるとバス停だったので少し先まで移動し、何度もエンジンを掛けるが動かない。スーパーカブなのに。タイ式と呼ばれるものだからか。やはりジュリアスモータースは胡散臭い店だったか。そんなマイナスの考えが浮かんだが、そういえばカトーサイクルが近くにあったとスマホで調べて電話した。

 

 「すみません。原付が壊れてしまい今から修理に伺ってよろしいでしょうか」と聞くと、「ああ良いよ」とのこと。

 

 もしかしたら軽トラで迎えに来てくれないかと思ったのでそれとなくだが、「今回転寿司の近くにいるのですが、原付を押してくので15分くらいかかるかもしれません」と伝えた瞬間に、「そこからだったら五分くらいで来れるだろうが」とこちらの考えを見透かされたような言い方をされた。以前、お店にクロスカブを見に行った時も頑固そうな親父だなと思ったが、機嫌が悪いようだった。

 スーパーカブを押しながら、これは意外と上半身の筋トレになるなとか。左側について押すと右側ばかり負荷が掛かるからバランス悪いなとか。はじめの一歩のトレーニングを思い出したりとか。クロアチアにいる石井慧がこのトレーニングを取り入れるように提案出来ないかという妄想とか。まあ色々思いついた。

 

 歩道を渡る瞬間だけ少し下りになっており気を抜いて少し引っ張られ、下りの方がトレーニングになるなと思った。少し曲がってくる車の視線を感じた。本当に五分くらいで店に到着した。

 

 物凄い数の原付が置いてあるのだが、雨で痛まないか、これだけのバイクを毎日出し入れするのは本当に面倒ではないかとか考えてしまう。工場らしきところに前向きに原付を乗り入れると誰もいない。店の中の原付やヤマハの電動自転車が所狭しと置いてあるスペースに目をやると年季の入った親父が2人、営業とも客とも似つかぬ若者が一人、脇を見やると皮膚がこれ以上ないくらいに潤いをなくした婆さんがいた。

 

 営業中に見えるので恐る恐る声を掛けた。

 

 「すみません。先ほど電話したものですが修理をお願いできますか。」

 

 婆さんが頑固そうな親父を呼びかける。頑固そうな親父が面倒くせえな、タイミング悪いな、今来るかよという気持ちを前身で表しながらこちらに来た。

 

 「ああ。どうしたの」と言われたので、「シフトアップしたらそこから動かなくなりました」と答えると、「エンジンはかかるのか」と言われ、「エンジンは掛かるんですが、前に進みません。何かカチャカチャ音が鳴って…」と答えている、「見なきゃ分かんねえよな」と怒られた感じになった。昔気質という奴だ。若者は来ないかもしれんない。

 

 一瞬でチェーンカバーを外すと、「チェーンが外れてるじゃねえか。前から音が鳴ってただろう」と何だか整備不良をなじるような言い方をされ、「いえ。分かんないす。もしかしたら鳴ってたかもしれません」と答える。

 

 原付を押してきたからか汗が出る。気まずい雰囲気が流れる。何で電話をして今から行くと伝えたのに、ここまで邪険に扱われるのか、やはりここで買った原付じゃないからここまでイライラしてるのか。およそ客とは思えないくらい恐縮しなければならなかった。

 

 しかしだ。直れば良いし、多少不愛想でも腕があれば何でもよい。僕自身がそういう気持ちで仕事をしていた。不当解雇をされたが。

 

 作業が終わったようだ。向こうから声を掛けてこないので自分から声を掛けた。

 

 「いくらになりますか」

 

 「1500円」

 

 安くないよな。

 

 「あの。お忙しいときにご迷惑かけてすみません。」

 

 僕がそういうと、少しだけ言い過ぎたかなという表情で親父は、「ああ」とだけ言って物販スペースに戻っていった。僕はおどおどしすぎたのだろうか。

 

 すぐにお金を払い、レシートをくださいなどと言える空気は一ミリもなかったので、長久手まで原付で向かった。ビレッジバンガードでトマスピンチョンの本を買いたかったからだ。アマゾンにもなかったので早めに買っておく必要があった。交通量が多い道は原付では怖いな、原付二種に乗りたいな、せっかくだからビッグスクターが良いな、いやクロスカブも良いぞ、でも二人乗りするならビッグスクターだよな、ズーマーXが良いな、ていうか雨が降りそうだ、雨降りだとバイクはきついからやはり車の免許を取るべきかな、免許を取りに行くのは面倒だなと考えながらビレッジバンガードに向かう。いつも同じようなことを繰り返し考えている気がする。もう33歳。僕の思念は二十代で成長を止めている。不当解雇をされ、いくばくかの和解金を手に入れ半年は働かなくても生きていける。失業給付金をもらえばもっと働かなくても良い。しかし、確実に時間は浪費されていく。そういえば、やっと前の職場から解雇を自己都合退職に書き換える書類が届いていたな。

 ビレッジバンガードに着いた。

 

 煙草を吸ってコーヒーを飲み、階段を上った入り口のガチャガチャにポケモン関係がないかチェックする。ない。いらっしゃいませと言われる。いつも思う。ここの店員はアウトローを気取ったファッションをしているが本物のアウトローではない。社会の中のアウトローの何だかお洒落な雰囲気が好きなものの中の枠でのそんな感じの人種でしかない。俺とは違う。小説のコーナーに向かう。女性店員がレイアウトについて話していて道を空けない。あのさ。社会の枠を踏み外すってそういうことじゃない。そう思いながら小説のコーナーにたどり着く。トマスピンチョンだ。六冊抱え移動する。おじさんの客が凝視する。ただ者じゃなく見えたのだろう。ただ者じゃないかもしれない。僕は33歳の無職だ。ただ者以下だ。六冊購入する。少し店員が驚いている。僕も驚いている。26,352円する。読まなきゃ損だとしょうもないことも考える。そういえば光文社文庫の「罪と罰」と「カラマーゾフの兄弟」もアマゾンで注文した。読み切るのに何か月かかるだろう。昨日は「悪霊」が80ページしか読めなかった。計算上は一週間で一冊だ。三か月半は掛かるだろう。そうすると七月か。それまでこんな生活を続けるのか。でも大丈夫だ。読む体力が戻れば、もっと早いペースで読めるかもしれない。紙袋に詰められたハードカバー六冊を原付のリアボックスに詰める。本の帯が重なって痛まないか心配する。トマスピンチョンが僕に与える影響を考えわくわくする。ドストエフスキーを読まないとトマスピンチョンは読めない。じゃあ、「悪霊」を出来るだけ早く読んでからトマスピンチョンを読もう。ほら。トマスピンチョンと柴田元幸の翻訳に目が行っているだけで本のタイトルも思い出せない。

 

 途中で雨がぽつぽつと降りだした。帰宅した。

 

 ポケモンゴーを開いた。オートキャッチで大したポケモンも捕獲できていない。

 

 ゴースナップでトマスピンチョンとコリラックマを並べ、ドーブルが出るのを期待する。300枚撮影したがドーブルは出なかった。時間の浪費だ。ツイートのネタが欲しかっただけなんだ。人と人とのつながりが拙い承認欲求の晒し合いぐらいしか残っていないんだ。週に一度か二度だけ前の前の職場の同僚とサイゼリヤで食事をし、彼が好きな金田一少年の事件簿の話をするくらいしか親以外との人間のつながりがない。僕は寂しいのかもしれない。

 

 けれど。

 

 フォロワーの人たちは良い人ばかりだ。僕のポケモンの写真にいいねをくれる。気持ちの落ち込みを示唆するツイートには気を使ってくれる。

 

 多分だ。

 

 類は友を呼ぶんだろう。

 

 もしかしたら、フォロワーの皆さんも僕と同じなのかもしれない。

 

 傷つきすぎて、ポケモンたちに癒されてるのかもしれない。

 

 ポケモンゴーをやれるくらいには正気なのかもしれない。

 

 いや、ポケモンゴーがあるから外に出て卵のために歩けるのかもしれない。

 

 きっと皆、何かしか疎外された気持ちがるのだろう。

 

 ツイッターによる拙い承認欲求の連帯でしかないのかもしれない。けれど、社会から疎外され誰からも相手にされない人間になるくらいだったら、色違いのポケモンを捕まえた喜びを他者と共有するくらいの方がむせび泣くよりかは幾分かマシではないだろろうか。