「おう、遠慮せんと喰えよ。」
「押忍。」
もうすぐ東京に行ってしまう勇が練習終わりに悟をラーメン屋に誘った。
もちろん皆で集まっての送別会も行なうのだが、それとは別に個人的に1人1人と別れを惜しんでいるのだ。
「もうすぐですね。」
注文を終えた悟が感慨深そうにつぶやいた。
「そうやな。」
勇はゆっくりうなずいた。
「早いな~俺ら出会ってもう10年以上経つな。」
「俺が6歳のときからですもんね。」
悟は遠くに視線を泳がせた。
「そうやな俺が10歳やったな。」
「泣き虫のお前が今まで残るとは夢にも思わへんかった。」
「そうでしたっけ?」
「ああ、千尋にも泣かされとった。」
「そうやったかな~?」
悟は何となくバツが悪そうである。
「まっ、懐かしい思い出や。」
勇がそう言ったとき、ちょうどラーメンが運ばれてきた。
しばらくは食べることに集中していた2人であったが、ふいに勇が口を開いた。
「そういえば、そろそろ決めたか?」
「決めるって?」
「瞳さんと千尋のことや。」
「そ、それは・・・・・・・・・」
悟は言葉に詰まった。
「まあなかなか決めづらいやろうけど。」
勇は一応、理解を示したが
「でも瞳さんはむずかしいやろうな。」
「お前とは10歳もちがうし、何よりあの人も夜の世界でしか生きられへん人みたいやから。」
「そ、そうっすね。」
その言葉を聞くと悟は落ち込んだ。
わかりすぎるほどわかっているからだ。
だからと言って大学生の身で瞳を養っていくこともできない。
「いうても千尋も隆となかなかええ雰囲気みたいやし。」
「悩むところやな。」
「はぁ。」
悟は元気のない声をもらした。
「悪い悪い、お前のこと落ち込ますつもりはなかってんけどな。」
「もう俺、みんなのそばにおられへんからどうなるんか気になってな。」
「まあ、とにかく喰おうぜ。」
勇は悟の肩をポンっと叩いた。
「押忍。」
悟は返事をしながら、そろそろ結論を出す時期が迫っているように感じた。