「あの~ダメでしょうか?」


隆一たちが固まったまま返事をしないので、美由紀は痺れをきらして訊いてきた。


美由紀のその言葉にやっと我に返った隆一たちは、あわてて彼女を席に座らせた。


「な、なんか買ってこようか?」


信也がたどたどしく訊く。


「いえ、サンドイッチとジュース持ってますから。」


美由紀は丁寧に断った。


それから彼女はペットボトルの蓋を開け、中身を1口飲んでからおもむろに話しはじめた。


「私は理工学部2年の鳥嶋美由紀っていいます。」


「えーっと、みなさんのことが知りたいんで教えてもらってもいいですか?」


彼女の申し出にもっとも早く反応したのは信也だった。


「あっ、俺、法学部2年の高本信也、彼女は募集中。」


いつものように武彦も後に続く。


「同じく法学部2年の山口武彦、やっぱり彼女募集中よろしくね。」


最後に隆一が自己紹介する。


「俺も法学部2年の笠原隆一、よろしく。」


隆一がそれだけで終えたので


「あれ、笠原くんは彼女いるの?」


美由紀が質問した。


隆一が答えにくそうにしていると信也が代わりに答えた。


「こいつ超ーかわいい彼女と同棲中だから。」


隆一は信也を睨みつけたが素知らぬ顔をされた。


「へぇ~そうなんだ、同棲してる彼女がいるんだ~。」


「ま、まあね。」


隆一が頭をかきながら答えると


「でも私、彼女がいても気にしませんから。」


「えっ!」


3人は驚きの声をあげた。


そんな3人をよそに


「あの~よかったら連絡先交換してもらえませんか?」


美由紀は自分の携帯を取り出した。


3人はあわててそれぞれの携帯を取り出し、美由紀とデータのやり取りを行なった。


そのとき、隆一の携帯が鳴った。


相手を見るとユリだった。


「おっ、愛しのユリちゃんかぁ~」


「ヒューヒュー!」


信也と武彦はここぞとばかりに冷やかした。


「う、うるせぇー!」


「あっ、ちょっとゴメンね。」


美由紀にはちゃんと断ってから電話に出た。


2,3言話すと隆一の表情が変わった。


電話を切った隆一は


「俺ちょっとヤボ用できたから、これで。」


「ゴメンね、鳥嶋さん。」


「美由紀でいいですよ。」


「えっ!」


隆一はまた驚かされたが、のんびりしている時間はない。


後ろ髪を引かれる思いだったが


「じゃあ、美由紀ちゃん、また今度。」


そう言うと去っていった。


後に残った信也と武彦はチャンス到来と思ったが


「私もそろそろ次の講義があるんで。」


美由紀は立ち上がった。


「えっ、行っちゃうの?」


名残惜しそうに武彦が呟いた。


「すいません、また今度ということで、じゃあ。」


美由紀は足早に立ち去った。


信也と武彦はきつねにつままれたような気分であった。