「将来虫歯になるから抜歯する」
という歯医者の説明に
私が納得できないでいると、
歯医者は保護者の親権を利用することに決めて、
私を家に帰し、
その間に親に直接電話しました。
私が家に帰ると親は
「はみ出て生えてきている歯があるんだって?
それは歯医者が『将来ひどい虫歯になって
周りの歯にも悪影響になるから抜歯しないとだめだ』
と言っているんだから、抜いてもらってきなさい。」
と言いました。
まるで、何か悪いことをしたのを隠していた子を
叱りつけるような言い方でした。
私が、
「片側だけ歯を抜くと、
そっちに前歯の歯並びがズレていきそう」
と言うと、
親は歯医者に一応確認してくれましたが、
歯医者は
「歯並びが多少横ずれしても大した問題ではない。
それよりも、将来虫歯になることの方が問題だ。」
と答えたとのことでした。
そして毒親は
「八重歯(=左上3番の歯。根が長くて
とても大事な歯です。)を抜けと
言っているわけじゃないんだからいいじゃないか。
いつまでも言うことを聞かないなら、
八重歯も抜いてもらわないといけないな。」
と脅しました。
虫歯治療に通っていたところは、
親の知人の歯医者なのですから、
親に頼まれれば、
親のどんな理不尽でむごい要求でも、
本当に実行してしまいそうで怖かったです。
私には
八重歯(=3番の歯)を親から守るために、
生えたばかりのきれいな奥歯を
犠牲にするしかありませんでした。
抜歯自体はあっけなく終わりました。
歯をポキッ、ポキッと二回傾けたあと、
すーっと引っ張り上げた感じで、
5秒ぐらいでした。
抜歯後、
その歯医者は無事に済んだことを
家に電話したらしく、
帰宅すると親が
「抜歯の時、
『泣きわめいたり抵抗したりしないで冷静だった』と
先生が褒めていたよ。」
と言いました。
その日の夕食時の親たちは
「抜歯で泣かなかった勇敢な娘」の話で
もちきりでした。
娘本人は
生えたばかりの健康な歯を
奪われた底なしの無力感と
途方もない疎外感を
感じながら、それを聞いていました。
私には、
抜歯で泣かなかったことを
いちいち褒める歯医者の心情や意図が
全くわかりませんでした。
歯医者の椅子の上で
泣きわめいて抵抗するという選択肢は
私にはなかったのだし、
そもそも泣きわめくことを思いつくような年齢は
とっくに過ぎていましたから。(注1)
ー 続く ー
2022-11-24 追記あり
親と歯医者の間のやりとりをつけ加えました。
(注1)
今(=2022年11月)思えば、
歯医者も毒親も
「保護者の親権を利用して
私に抜歯を無理強いした」
という自覚があったからこそ、
抜歯時に「泣きわめいたり抵抗したりしないか」と
おそれていたのだと合点がいきます。