手当たり次第の読書日記

新旧は全くお構いなく、読んだ本・好きな本について書いていきます。ジャンルはミステリに相当偏りつつ、児童文学やマンガ、司馬遼太郎なども混ざるでしょう。
新選組と北海道日本ハムファイターズとコンサドーレ札幌のファンブログでは断じてありません(笑)。


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漂砂のうたう/木内 昇
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『新選組 幕末の青嵐』以来2冊目の木内昇です。デビュー作からいきなり最新作に飛んでしまいました(笑)。

過去に材を採った歴史小説、時代小説とはいっても、それが書かれ読まれる「現代」の流行や様相や時勢や気分、そんなものと無関係ではありえないのだと聞いたことがあります。たとえば、高度経済成長時代のあとには元気いっぱいの女性が主役の『功名が辻』が書かれた、というように。

だとすれば、明治初期の根津遊郭を舞台にしたこの小説が、他のいつでもなく今書かれ、今、直木賞に選ばれた、ということも、時代の必然だということになるでしょうか。

維新によって己の拠りどころを失った元武士、というのはこの時代が舞台の小説としては珍しくない主人公の設定です。でも、その「失った様子」がこんなふうな人だ、というのは今までなかったんじゃないかなあ。

あくまでも武士であることに拘泥し続け、新時代の中で不器用にもがいている──というのではない。新時代を認められず、相次ぐ士族の反乱に身を投じていく──というのでもない。かといって、あっさりと過去を捨て去って新時代に適応しきっていく、という訳でも全然ない。

作中では何度も、根津遊郭は谷底だ、ということが繰り返されます。これは実際の地形の説明でもあるのですが、主人公達の意識のあらわれでもあるんですよね。風に吹き流されて谷底にたまった砂のような存在。花魁達の前借金は、よっぽどの売れっ妓でもなければいつ返し終わるのかというあてもなく、下働きの男達にとっても、上り坂の将来につながるような仕事ではありません。かといって誰も、失望や絶望のうちに日を送っているというのともちょっと違う。

いろんなことが、なし崩し、なあなあ、見て見ぬふり。ぐっと呑み込んで、やり過ごして、さりとて不安を完全に忘れてしまうこともできないから、刹那的・享楽的にもなりきれない。

そんな、何ともやるせなく、やりきれない日々が、これでもかという精密さで描写されていきます。

これは、「今」の世の中にもあることじゃないか。

そんな気がしたんです。

今の日常に何も満足はしていないけれど、ではどうすればいいのかはまるでわからない。だから今日も昨日と同じように生きている、内向きだとか覇気がないとか言われる青年達。

そういう人々の目立つ時でなかったら、作者はこんな主人公を設定し、こんな物語を綴っただろうか。

たとえば、終わってみれば空虚な騒ぎではあったとしても、少なくともその最中には華やかに盛り上がって見えた「バブル期」だったら。こういう物語は生まれなかったんじゃないでしょうか。

実際の明治初年に生きた人々の、実際の心情がどうであったかなどということは、後世の私達にはついに知りようがありません。人は結局のところ、自分の見たいものを見、聞きたいことを聞こうとするものだからです。

そして、時代小説というのは多かれ少なかれ、「昔はよかった」の空気をまとっています。今より生活が大変だったのも国力が弱かったのも人権なんてないに等しかったのも判っていて、それでもなお「でも今では失われてしまったこんな良さがあったよね」と言いたい、思いたい。それが時代小説というものです。

でも、この小説を読んでそういう「時代小説らしさ」を味わうことは、残念ながらできません。読者をひととき錯覚させてくれる「美しい日本の昔」などはどこにもなく、ただ、砂を噛むような日常の味気無さというものを、小説の中でまでいやというほど痛感させられるだけ。

浮世の憂さを忘れるために本を読む、という人にはおすすめできない小説です。でも、読み応えはありますよ。

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アンの幸福―赤毛のアン・シリーズ〈5〉 (新潮文庫)/ルーシー・モード モンゴメリ
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昨日、職場の昼休みのこと。

食事しながらテレビを観ていた人が突然笑い出したので何事かと思ったら、彼が観ていたのは「おひさま」の再放送だったんですね。

教師になったヒロインが初めての家庭訪問をするくだり。

食べきれないほどの御馳走責め、しかも郷土料理の「蜂の子」をおいしいと言ったら、その後ずっとどこへ行っても「蜂の子」が……。

というシーンだと聞いて、ぱっと思い出したものがありました。

「赤毛のアン」シリーズの続編で、そっくり同じ展開があった! 確か『アンの青春』じゃなかったっけ?

帰宅してから本棚を確かめてみたら、ちょっと違ってましたね。『アンの幸福』のほうでした。

大学を卒業し、とある町の小学校の校長(!)になったアン。お近づきの印にと食事に招かれた家で、出された「カボチャの砂糖漬け」がおいしくて、大絶賛してしまいます。いや、その時の彼女は本当にそれが気に入ったんですけれども、ただし、その後が問題でした。ご招待は1回じゃ終わらないんですね。町の人全部から次々とお招きがあり、そしてどのお宅へ行っても、お好きだそうですからと出てくるカボチャの砂糖漬け……。

しまいには、下宿している家の家政婦さんから、今日行く家の人はカボチャが嫌いですから大丈夫ですよと励まされて出かけていくような始末。しかもそう言われていたのに、いざそのお宅に着いてみると、うちでは食べないんですけど先生がお好きだとうかがったのでご近所からもらってきましたのよ、と(爆)。

という訳で一連の顛末を婚約者への手紙に書くアンは、自分達の新家庭では絶対にこれは食べないことにしましょうねと綴るに至るのでした……。

「おひさま」は偶然の一致かもしれませんが、仮に脚本家さんが参考にしたのだとしても、パクリだ!とかいうような話ではない気がします。「新米先生奮闘記」のお約束パターンと見なしていいように思うんですよ。あ、そういえば『坊ちゃん』でも、さつまいもが好きだと言ったら下宿の食事がそればっかりになって辟易する、というのがありましたっけ。

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冬のオペラ (角川文庫)/北村 薫
¥580
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NHKテレビで「探偵Xからの挑戦状」という企画があります。

ミステリドラマの犯人当てなのですが、あらかじめ登録しておくと、放送日の前から携帯電話に問題編が小説の形で配信されて、それを読んで事件の真相を推理し、送信する。で、後日の放送日には、寄せられた回答の総数や内容、正解者の人数などが発表されるわけです。

私はミステリ好きではあってもめんどくさがりのため、自分で推理しようという気を起こしたことがまるでありません。なのでこの番組もほとんど観たことがなかったのですが、北村薫が出題者になると聞いて、俄然身を乗り出すこととはなりました。

というのは彼の提出するその問題が、「あの名作『冬のオペラ』の続編」と紹介されていたからです。

探偵、ではなく名探偵、である男・巫弓彦。その記録係を買って出た少女・姫宮あゆみ。僅か3編、1冊きりでありながら、鮮烈に忘れ難い印象をいつまでも残すこのシリーズの、18年後という設定だというんですね。

大人になった姫宮あゆみは、ミステリ作家になっています。公開対談のため出向いた大学で、対談相手の作家が殺されているのを発見。被害者は片手の指をおかしな形に伸ばして死んでいました。これはもしかするとダイイングメッセージなのか──?

という犯人当ての問題を、なぜ北村氏は、わざわざ「冬のオペラ」の18年後という設定にしたのでしょう。ただ単に名作シリーズの復活を希望する愛読者へのファンサービスというだけではありますまい。作者自身にとっての必然性が何か必ずあった筈です。

観てみて、ああそうかと思いました。

もう随分前の作品ということで御容赦願いますが、「冬のオペラ」で描かれる殺人は、物凄く身も蓋もない言い方をしてしまうと「痴情のもつれ」なんですよね。それも大学という場所で、既にいい大人である研究者達の間で起きた痴情沙汰です。何とも情けなく、やりきれない事件。

ただ、北村薫の筆は、その情けなさ、やりきれなさを笑いものにすることなく、その中に人間の弱さ、哀れさ、行き先を間違えてしまった必死さや真剣さを見出していました。

で、今回の番組で放送された物語、「ビスケット」。

これも、そういう話だったんです。

場所は大学、関係者もそこの人間。

しかし事件の原因は学問や研究には全く関係のない痴情沙汰。

ダイイングメッセージが指し示すものは、疑いを挟む余地なくたった一人の人物、犯人のみ。

「冬のオペラ」そっくりでした。

これまたネタ割りを御容赦願いますが、殺人を犯してしまったのは、被害者に妻を奪われた男です。でも、彼の動機は、「妻を奪われたこと」それ自体ではありませんでした。

妻を誘惑した男が、しかし、妻を本気で愛してはいなかったから。彼女を侮辱したから。だから、殺した──。

こんな犯人の告白を受け止める役割をするのは、なるほど、巫弓彦と姫宮あゆみ以外の誰であってもいけなかったのだ、と思いました。

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