今日はある婦人科医のお話。
一癖も二癖もある嫌われ者の婦人科医。
変人。
病院スタッフからはそんな評判の先生でした。


その先生が3月で定年を迎えました。


誰も送別会なんてやってくれないであろうと
ケモ室メンバーでささやかな退官パーティーを企画しました。
私も体調のこともあり、まだ人のたくさん集まる場には行きたくないという思いもあり、他の先生の送別会は全てお断りしていました。



今日は行きました。
何故なら私はこの先生好きだったんです。

みんなが知らないこの先生の凄さを知っていました。見ていました。




今時組織に逆らう医者、儲けのことより患者さんの気持ちを優先する医者は少なくなってきています。
その信念を貫き通す医者は病院からは嫌われ者や変人扱い。



患者さんを見ていればわかります。
この先生がいい医者か、悪い医者かは。

私がはじめて婦人科病棟に配属された当初は、
絡みづらい医者だなー、なんて思っていたのですが。
ナースにいちいち指示を確認されたり、忙しい外来時にどうでもいいことで電話されると切れます。
だからみんなこの先生に誰も意見しなくなっていました。

末期患者さんに治療をやめる決断がなかなかできない。
退院したくないという患者さんをいつまでも入院させてしまう。
緩和ケア病棟をなかなか進められない。
決断のできない医者。
そう思われていました。


でも、私はたくさんの患者さんと先生との関わりを見てきて気づきだしてました。
この先生、決断ができないんじゃない、
末期患者さんの揺れる心に一緒に揺れてくれてるんだ、ということに。
子宮を取る取らないの患者さんの揺れる気持ちに一緒に揺れてくれる、ということに。


患者さんは、何度も治療をやめたいと思いながらもどこかで希望は持っています。
こうしたい、でも翌日になるとやっぱり嫌、
そんな揺れる気持ちに寄り添っていたのではないかと思います。


見ていてそう思ったのです。


ある患者さんが腹水パンパンで呼吸も苦しくて入院してきました。
何年も抗ガン剤治療をしてきました。
もう、この状態で抗ガン剤治療を続けることは・・・
と誰もが思っていました。
先生ももちろんそう思っていました。


この日、腹水を抜くための処置が行われました。
ゆっくり自然滴下でドレーンから。
その間、2時間くらい付き添います。
先生は部屋に入ってきて、
室内の床に座り込みました。ヤンキー座り。
患者さんは、
「先生、私、治療はこれからも続けられるの?」
と。


何分も沈黙が続きました。
先生は、
「どうしよっか。」

と。
滴滴と流れてくる腹水が溜まるドレーンバッグをずっと見つめていました。

一緒に約1時間そのまま居続けました。


その時間、外来や他の患者さんのことでかなり忙しいはずの時間でした。


その沈黙の1時間は自然な空間でした。
ただ居ること。
それがこの患者さんにとっては癒された時間でした。





患者さんは自分からこう話し始めました。
「先生、忙しいのにありがとう。
私はもう治療は無理ね、無理よね。わかってた。
先生ありがとう。」


この時確信しました。
この先生、すごい、すごい。と。


それから私はその先生に患者さんの思いや言っていたことを積極的に伝えるようになりました。
うるさがられる、そう思っていたのですが、
うるさがられるどころか、
「ありがとう、患者さんの話を聞いてくれて、思いを引き出してくれてありがとう」
と。
患者さんをよりよくするためのことについてはいつも真剣に聞いてくれました。
次第に治療や症状緩和について、私に相談してくれるようになりました。
しまいには、朝来ると、
「みーさん、ラウンド行くよー」
夕方には、
「みーさん、夜のラウンド一緒に行ってー」

先生、私今日はギネじゃないんですけどー真顔
という日々でした。

ギネとは婦人科のことを言います。



毎日毎日患者さんはこの先生を待ってるんです。朝も夜も。ニヤニヤした顔を見せるだけでも患者さんは安心します。
この崇拝のされ方はなかなかいません。




自分の信念を貫く医者は時にはスタッフを怒鳴りつけます。
でもこうやって嫌われ者になる覚悟をもって患者さんを守ろうとしている先生の姿は私は尊敬していました。


今日は送別会。
先生と2人きりになった時に、
私の病気のその後の経過、これからやろうとしている手術について話を聞いてくれました。
私がお腹が痛くてたまらなかった時にすぐにMRIを撮ってくれた先生でした。
からかいながら笑いながら、
「ただの便秘じゃないの〜?ギネじゃないかもしれないじゃない?」
と言われた時、
私が真剣な顔して、
「いえ、ギネなんです」
と言い切った時、
真剣な顔つきになり、「バカヤロウ!」
と叱ってくれました。

ナースがギネだ、と確信しているということは、それなりの症状はずっとあり、そしてこの尋常ではない痛み、
悪いもの、しかもかなり進行しているものだ、と一瞬にして先生も気づいたのでしょう。
その、バカヤロウには愛情を感じました。



先生のおかげで他の病院ですぐに治療できるように紹介状を書いていただいたのです。


今日最後に、
「仕事辞めないよな?」
と言ってくれました。

この、ボソッとした一言。
嬉しかったです。




{CDED815D-51AA-480E-BD4D-D82112B1D14B}

{751C0F57-31B8-4C19-BB41-D61AF680BC8B}

この先生、まだ週に何回かは病院で働きます🏥