中学2年生の僕:サッチョウさん(木戸隼人)は、全員クラブ活動のくじ引きで第1希望のサッカー、第2希望のハンドボールともに落選し、そろばん勘定クラブに入部することになった。生徒は、どうやら僕とビャッコさん(福島乙女)の二人だけのようだ。丸眼鏡のデカくて外国人っぽい江守先生(カイシュウ先生)は、さっそく僕たちに、自分の値段はいくらかと最初の問題を出した。僕は生涯賃金から換算して1億円と答えた。しかし、ビャッコさんの答えは、10億円。もしも、自分が誘拐されたら、祖母は、それくらい払うだろうと考えたからだという。そして、返す刀で、カイシュウさんの値段はいくらですかと問い返した。
『レモンをお金にかえる法』という児童書の経済学入門を以前読んだことがありますが、雰囲気が似ています。
それもそのはず、もとは小学5年生だった娘さんのために書かれたものだったそうです。
数年後には次女さん、その後三女さんと三姉妹が読むことになった家庭内限定の読みものは、長期休載を挟んで7年に及んだそうです。
「金融・経済学系学園ドラマ?」風に仕立てられていて、経済やお金
の仕組みが、楽しく理解できるようになっています。
まず、カイシュウ先生が命名するおやじギャグ的ネーミングにニヤニヤ
してしまいました。
木戸隼人:サッチョウさん ➡ 木戸孝允+薩摩隼人=薩長連合
福島乙女:ビャッコさん ➡ 福島→会津→白虎隊
江守:カイシュウ先生 ➡ 江戸城無血開城(江戸を守る)の勝海舟から。(お金の回収ではありませんよ)
そして、二人の答えから、お金
を手に入れる方法へと話が進んでいきます。
かせぐ ➡ 働く
ぬすむ ➡ 犯罪
もらう ➡ 遺産を相続する
1時間目を終えて出された宿題が、この3つ以外にお金を手に入れる方法を3つ挙げなさい。
なかなか楽しいクラブ活動じゃないですか。![]()
- かせぐ
- ぬすむ
- もらう
- かりる
- ふやす
- ???(最後に公開)
お金を手に入れる方法として挙げられたカテゴリーに、いろいろな職業をあてはめながら、その職業が役に立つ・立たなないを考えていきます。
サッチョウさんのお父さんは消防士で、世の中の役に立つ仕事。
ビャッコさんは、お金持ちのお嬢さんなんだけど、それを羨ましく思っています。
なぜなら、福島家は町一番の大地主で、パチンコ屋(ギャンブル)を経営していて、ローン会社(高利貸し)も持っているけど、そのどれもが、社会に害する仕事だと感じているからです。
サッチョウさんは、次の宿題である3つの職業に、先生・昆虫学者・パン屋を挙げます。
カイシュウさんからサラリーマン・銀行家・バイシュンフや軍人などの追加の職業の提示もあり、市場経済・資本主義・貧富の格差、アダム・スミスの『神の見えざる手』やピケティの「r>g」の不等式に仮想通貨、課外授業として「オフショア」まで、ざっくりお勉強します。
そして、第6番目のお金を増やす方法をはじめ、ちょっと怪しげな「そろばん勘定」クラブの謎とカイシュウ先生の正体が、ラストで明かされます。
その種明かしを知ると、なるほど、そういうことかと、カイシュウ先生の今までの言動が腑に落ちます。
それにしても、ビャッコさんち、どんだけお金持ちなんや。![]()
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お金というのは、この世に生まれ落ちた人々が生み出した知恵です。それは、我々人間が似た者同士で、同じようなモノに価値を認め合うという幻想に支えられている。そして『つくる』という魔法でお金が円滑に回るには、人と人とが信じ合う、信用や信頼が欠かせない。ワタクシは、お金というものは、人間が互いに支え合わないと生きていけない存在であるが故に生まれた、知恵の結晶だと思います
【独り言】
◆ジェンダーフリー
カイシュウ先生が、検討すべき職業として「売春婦」と板書に追加します。
サッチョウさんの心の声「おいおい、いいのか、これ」のあと、「売春夫」と書き足すカイシュウ先生。
えっ、そこ?
私もサッチョウさんと一緒に突っ込みましたよ。![]()
◆新参者の損益
最古の職業の要不要をめぐるデビルズ・アドボケイト(悪魔の代弁者)の後、カイシュウ先生がビャッコさんに、ギャンブルについても同じように個人的意見を述べるシーンがあります。
それらが、娘さんたちへのメッセージのように思えて、父の愛を感じました。
どちらの職業も、もどかしさを含みながらも、人間社会に不可欠な部分を担っていることも否定できないとし、有害であるけれど、なければ人の世が成り立たないという現状の葛藤を伝えています。
そして、ふと思い当たったのが、巨人の肩の上に乗るということ。
それは、過去の恩恵を受けながら、負債もまた引き受けんとあかんいうことなんやろなぁ。
我々はね、常に遅れてやってくるのですよ。生まれたときには出来上がった世界が回っている。誰もがそこに遅れて参加する
◆『平和の配当』
軍人についても必要悪ではあるけれど、出番はない方が良い。
究極には、いない方がいい。
しかし、軍備を整えることで、抑止力になり戦争を回避できる。
また、戦争を回避することで生まれた利益を、もっと有益なものに回せる。
はずだった。
冷戦終結後に平和で豊かな世界を築く機会があったのに、それを無駄にしてしまったとカイシュウさんは言います。
軍備に浪費されるはずだった「平和の配当」を得ながら、うまく使えなかったと。
「平和の配当」
かぁ。
ステキな言葉ですね。
今は、やっぱり配当どころか赤字なんやろね。
早く利益が出るように、そして、今度こそ有益に使えるようにと心から願います。
