「一天四海・立川龍志師匠」 の 「酢豆腐」 (おそらく、フルバージョン) を 「前中後編・三分割」 

   にしてみました!

   「中編」 までの 「ぬかみそ桶・古漬け・覚弥の香々騒動」 を終えて 「酢豆腐」 が登場致します。

   その 「酢豆腐」 を作っちまたのが 「与太郎」 のようでございまして・・・・・。

 

   「あ そうだ、ゆんべ 冷奴にした 『豆腐』 が余ってたろ。 あれ、如何した? なに! 『与太郎』 

   に預けた・・・大丈夫かぁ? おう、『与太!』 ゆんべの 『豆腐』、あれ 如何した?」

   「えへへ 『豆腐』 だろ 大丈夫だよ。 鼠に引かれちゃイケないと思ってさ、ちゃんと仕舞ったよ

   『お釜』 に入れて 沢庵石で蓋しといたから! (偉かったでしょ と自慢顔だったんでしょうね)」

   「『お釜』 に入れて蓋した! 大丈夫かい? この暑さだよ・・・『与太郎』、蓋を開けて御覧よ」

   「うわ、うわ・・・『豆腐』 が 黄色くて大きく育ってらぁ~。 あ 周りにモヤモヤとした毛がポワ~

   っと生えて、腐った、なんか酸っぱそうな 良い臭いがしてる」

   「だから言ったこっちゃねぇや。 おい こっちに持ってくるんじゃないよ。 裏に穴を掘って埋め

   ちまい・・・あ、ちょっと待て待て。 余興を見せようじゃないか。 ほら、『伊勢屋の 馬鹿旦那』 

   がこっちに来るぜ。 あいつに 此れを 喰わせようじゃねぇか・・・・今度は俺の独り舞台だ!」

 

   「(ああ 見てごらんよ。 あの歩き方! 気障だねぇ・・・) 若旦那! ねぇ、ちょっと寄ってらっ

   しゃいよ。 素通りはないよぉ~」

   「おんやぁ~、こんつわぁ」

   「(あはは 来たよ、『こんつわぁ』 と) 若旦那、こっちに おはいんなさいなぁ~」

   「これは これは、町内の色男の寄り合いでげすな」

   「(『げすな』 ですかい!) 若旦那、相変わらずお口がお上手で。 ご一緒に一杯 どうです」

   「おじゃまになっては、悪しゅうがすから・・・・・」

   「いや、どうぞ 寄ってってくださいよ。 ねぇ、あぁた 冷たいよ、お寄りなさいよ」

   「さいでげすか? それでは失礼をば つかばつって、ちょいと いつふくしようかねぇ」

   「いつふくするとよ、さあさあ若旦那、おざぶをおあてになって・・・いやぁ~ あぁた、色男だね

   近頃ばかな評判! よっ 色男!」

   「おンやぁ~、拙の噂をですかぁ~、いず方でぇ」

   「いず方も こず方もないよ、町内の女湯で ばかな評判で」

   「おンや 女湯でぇ~ ほ ほっほっ。 まさかぁ~ん、それほどでもありませんよぅ・・・・うひゃ」

   「あああ 鳥が飛んで来たんじゃあないよ、若旦那が喜んだんだよ。 あっ 若旦那、お見受け

   致しましたところ、おやおや ゆんべ おつな色模様がござんしたね~ 『夏の夜は、短いわん、

   あたし今夜は帰りたくないん』 とかなんとか 女子にしがみつかれたりなんか・・・しやしたね」

   「これはこれは、さよう ゆんべの色模様 『夏の夜は、短いん』 を見抜くなんざ恐れ入りンした

   昨夜の姫なる者は、拙にバカな恋着ぶりで、ねぇ。 『この袖で、ぶってやりたい もし届くなら、

   今宵の二人に邪魔な月』 てな都々逸なんぞ唄いやして、拙の股の辺りをツネツネ・・・首っ玉   

   にギュ~ッと・・・『しょかぼの べたぼ』 で、ご婦人に一命を奪ばわるるかと」

   「若旦那 『しょかぼの べたぼ』 ってぇの? 『初会で惚れられ べた惚れ!』 お~い、誰かぁ

   代わって呉れ! 若旦那、あぁた 罪ですよ。 こんだけ野暮でモテねえ連中が雁首揃えてる

   ってぇのに。 若旦那、あぁたがそんなにおモテになるってぇのも ご通人だからでござんすよ。 

   召し上がりものだって、あっし達とは 違いましょう? 夏向きのこの節なんざぁ、どんなものを 

   お召し上がりに?」

   「いンやぁ~、これはまた 異な事をお尋ね。 当節、拙をして おつななどと言わしむる食物ぁ、

   もう ごわせんねぇ」

   「そうでしょそうでしょう。 そこがご通人の辛い処ですよねぇ~。 いや今日お呼びしたってぇ

   のは他でもねぇんです。 実はね、脇からの頂戴ものですがね、なんでも大変に高価な食べ

   物だってんですがね。 食通の方でないと分からねぇって・・・あぁた、何かにつけてご通人で

   いらっしゃるから、一寸見て貰えませんかねぇ」

   「おンや、嬉しいねぇ。 それでは、拝見いたしましょうか?」

   「拝見して呉れるとよ、持っといで・・・え 何をって、あれだよあれ! 例の釜に仕舞いぃ~の、

   沢庵石を乗っけぇ~の、黄色くなりぃ~の、毛がモヤモヤ・ポワァ~の・・・それ、それをこっち

   に・・・うわぁ~・・・これなんで・・・ふ ふあぁ、ふぁっくしょい!・・・えへへ、これ これなんです」

   「おンやぁ~、これは これは・・・んんん、こんな 珍なる物が、よく手に入ったねぇ~」

   「あの 若旦那、随分と顔から離して御覧になっておられますが、これは やっぱり食べ物です

   かい?」

   「うん、もちりん」

   「『もちりん』 と来ましたか。 で、若旦那、これは召し上がった事が あるんですかい?」

   「『あるんですかい』 とは、また愚なるお尋ね。 拙なんぞは、既に三度ほど」

   「ああ、そりゃあ良かった! じゃ、ひとつ ここで食べて見せておくんなさい」

   「此処で・・・此処で・・・ん、いや これをば 宅に持ち帰り、鑑定を行った後に 夕餉の膳で一献

   傾けながら戴く事に致し・・・・・」

   「いやいやいや そんな事はおしゃらないで。 あっし達ゃどうも食べ方さえ 分からねぇ始末で、

   ひとつ 目の前で食べて見せておくんなさいよ。 なぁ、みんな 頼みな。 ね、これだけの頭数

   が、お願してますんで、ひとつ宜しく・・・・・」

   「さいでげすかぁ。 う、嬉しいねぇ、では 食させて戴きやしょう。 ひとつ 匙なるものをお貸し

   願えますか・・・はい はい、嬉しいねぇ。 此処で、こう云う 珍なる物が食せるとは・・・・なんと

   なんと・・・ハックショイ!・・・嬉しい事でありま・・・んんん、この香りと云うものが、この料理の

   命でございやすから、先ずは 香りを楽しみやしょう。 ゲ、ゲホッ! 眼にピリピリと来ますな、

   この眼ピリ鼻ツンと云うのが なんとも言えず、この食の値打ちで・・・こう、匙で掬いまして ね、

   毛がモヤモヤと ドロ~ンとして 匙にもかからぬ、これまた おつでげすな。 黄色なる色合い

   が、なんとも 食をそそると申しましょうか・・・では、戴きます・・・ウ、ウプ、ゲホッ・・・・・」

   「あの、若旦那? 眼を 白黒させて・・・だ、大丈夫でござんすかい? おお、飲み込んだ!」

   「いンやあ、おつで げすねぇ~」

   「喰った、喰ったよ! 喰ったねぇ、若旦那・・・そりゃ いってぇ、なんてぇ 食べ物で?」

   「これ、これでげすか 『酢豆腐』 ですな」

   「上手い事言うねぇ。 こりゃどうも・・・良かったら、もっと お上がんなさいよぉ」

   「なぁ~に、『酢豆腐』 は 一口に限りやす」