「一天四海・新涼の刻 立川龍志師匠」 が演じます 「酢豆腐」 (おそらく これが フルバージョン

   だと思いますが、結構長くなってしまいましたので、部分的には 端折りながらも 「前中後編」 に

   分けております)

 

   『酢豆腐』

   「暑気払いに一杯遣ろう」 と、酒は二升を用意致しましたが 酒の肴まで銭が廻らないってんで、

   「鉄ちゃん」 の言う 「ぬかみそ桶」 の隅っこに在る 「古漬け」 を取り出して 『覚弥の香々』 を肴

   にしようと云う事になりましたが 誰もが 「ぬかみそ桶」 に手を突っ込むのを嫌がっておりまして

   困っているところに 「熊さん」 が 「こんな事で仲間内で揉めちゃイケない、俺が 取り出すんじゃ

   ないけど 良い方法がある。 俺の独り舞台、任して貰おう。 みな黙ってなよ」 と 言った先には

   「建具屋の半公」 の姿が在りまして・・・・・。

 

   「お~い 半公、半ちゃん!」

   「え? あ 熊さん。 ああ みんな集まってんな、何だい?」

   「いやね、暑いからさ みんなで暑気払いで一杯遣ろうってね。 お前も上がって 付き合いなよ」

   「そうもしてられないんだよぉ~、仕事でさ。 行かなきゃなんない処があるんだよ」

   「無理強いは出来ないね、分かったよ。 また今度付き合いねぇ・・・けどよぉ~おめぇ ずるいよ

   おめぇ一人女にモテやがって、あんまり町内の女を惑わすな。 『小間物屋の みー坊』 なんざ、

   大変だぞぉ。 色よい返事して遣れよ、この 色男! 女殺し! 色魔! 早く 行っちまえぃ~~」

   「えへへへ、こんちわ」

   「なんだい、上がってきたよ! 仕事だろ? 用事があるんじゃないのかい?」

   いや 仲間内の付き合いてぇのも大事だからさ。 ま、用事って言ったって高が知れてるんでね。

   へへへ、で 『みー坊』 が何だって・・・・・」

   「『みー坊』 ね、全部 知れてるんだい、お安くねぇぞ。 二・三日前に やけに暑い晩があったろ、

   暑くって寝られやしねぇや。 で 俺が横丁の縁台で涼んでたんだよ。 するってぇと、そこにさぁ

   『小間物屋の みー坊』 が出てきてな、話を始めたら 何だか知らねぇけど やたらと 『半ちゃん』

   『半ちゃん』 ってさ、『半公』 の名前ばかり出て来るじゃねぇか。 こっちは面白くねぇから言って

   遣ったんだ 『んん 事に依ると、お前 半公に岡惚れかい?』 ってね」

   「うんうんうん、ふんふん、そ、そ、それで・・・・・?」

   「おいおい、そんなに前に出て来るない! 暑苦しいよ。 ま、大概の娘なら 人前でそんな事を

   言われたら 真っ赤になって俯いちまうわ、ところが 『みー坊』 は 違うんだよ。 『ああら 熊さん、

   あたしが 半ちゃんに惚れちゃイケないの?』 だって、お返しが来ちまった」

   「は、はあ・・・ふぁふぁふぁ・・・はぁぁぁ」

   「おいおい 大丈夫かい、声が裏返っちまてるよ、しっかりしろよ。 それでな、俺が 言って遣った

   んだよ。 『イケねぇ事はないが、おめぇは物好きだなぁ、この町内に 若けぇもんは幾らでも居る

   じゃねぇか、銭のある奴も居りゃ 様子の良い奴も居るじゃねぇか。 選りによって 半公なんぞに

   惚れたんだい」 ってね。 そしたらな 『あら 熊さん。 女ってぇもんは、銭が在る様子が良いとか

   云う男に惚れるんじゃない、本当に男らしい男に惚れるのよ』 だと。 『半公はそんなに男らしい

   のか』 って言うとな 『あれが 本当に男の中の男 江戸っ子、頼まれたら決して後に引き下がった

   事なんか無い。 そう云う処に、あたしは惚れたのよ』 だって 『みー坊』 が言うんだよ」

   「そうか、そうかい。 『みー坊』 が、世間の女が・・・俺の了見を・・・ウウウッ」

   「泣くなよ! 半公 お前本当に 男の中の男、頼まれたら決して後に引き下がった事なんか無い

   のかい?」 

   「当ったり前でぇ、こちとら江戸っ子だ。 人にものを頼まれて、後に下がった事なんぞ・・・・・」

   「そうかい、此処に居る一同が 揃って頭を下げて 頼みてぇ事があるんだが、引き受けて呉れる

   かい?」

   「おう、何でも 言ってみてくれい!」

 

   「半公、半ちゃん。 『ぬかみそ桶』 から 『古漬け』 出してくんないか?」

   「あ、ああっ・・・さよなら。 ちょちょっとぉ~引っ張らないで! 着物が破れちゃうじゃねぇか離せ

   よう。 分かったよ、待てよ! なんて悪い奴らなんだ、熊さん、おい 熊! てめぇって野郎は 人

   を その気にさせといて・・・『ぬかみそ』 は勘弁してくれよぉ~。 これから出かけるんだぜ、俺は。

   臭いが残っちゃって、如何にもならねぇじゃねぇかよ」

   「駄目、駄目だよ! あれだけ 啖呵切ったんだぜ、頼まれたら決して後に引き下がった事なんか

   無いんだろ? さぁ、『ぬかみそ』 出しゃがれ!」

   「頼む、頼むよぉ~。 分かったよ・・・すっかり その気になった俺も間抜けだった。 こうしようじゃ

   ねぇか、『古漬け』 買うだけの金を 俺が出そうじゃないか。 それで勘弁してくれよ」

   「そうかい、まぁ それならそれで良い事にな、で いくら出そうってんだい?」

   「んんん、こ こんな処で 如何だい?」 

   「ほう、指を三本立てやがったね。 三円かい、三十円かい?」

   「え、ええっ 三十銭で・・・・・」

   「おいおい 三十銭は ねぇだろよ」

   「じゃあ・・・これで」

   「今度は 指が五本立ったぜ。 五円、五十円?」

   「五十銭、五十銭で 勘弁してくれよ」

   「みんな 如何だ 二円で。 初犯だから二円で勘弁してやるか、良いね。 半公 お許しがでたよ」

   「ああ、それで勘弁して呉れ・・・此処に置くよ。 じゃ、俺も ちょいと一杯」

   「何を言ってやがんだい、おめぇ仕事があるって言ったじゃねぇか。 出すもん出したら、とっとと

   出かけなよ! 消えろ 消えろ!」

   「そんなぁ~ 酷でぇ事言うなよ。 分かったよ、行くよ、行きゃ良いんだろ。 ったく、なんてえ野郎

   だい!」

   「あ、そうだ 半公! 『仕立屋の お銀ちゃん』 もさぁ~」

   「うるせぇな、その手は食うかい!」 

   「あはは、怒って行っちまった。 如何だい 『ぬかみそ』 に手を突っ込まないで 『古漬け』 が手に

   入ったろ。 これだけあれば、なんか肴が買えるだろ」

 

   「あ そうだ、ゆんべ 冷奴にした 『豆腐』 が余ってたろ。 あれ、如何した? なに! 『与太郎』 に

   預けた・・・大丈夫かぁ? おう、『与太!』 ゆんべの 『豆腐』、あれ 如何した?」

 

   ここまでを 「中編」 と云う事に・・・いよいよ 「後編」 に 『与太郎作? 酢豆腐』 が登場致します!