「開口一番 柳家寿伴・道灌」 の後は・・・・・「立川龍志師匠」 が高座に上がりまして。

   「今日は台風・嵐でございましてね、お客さんも 来ないんじゃないか 中止じゃないかと、楽屋で

   楽しみにしておりましたが 大勢の決死隊の方々にお出で戴きまして誠にありがとうございます。

   嬉しくて、楽屋で失禁をする者までおりまして・・・・。 今日は予め 「噺の お題」 が決まっており

   ますが、私 前回も そうなんでございますが 季節がズレてしまうようでございましてねぇ。

   (そうそう、前回・五月の 「一天四海」 で 『花見の仇討』 を遣りましたな。 高座に登場して 直ぐ

   に 『え~ 初夏に 「花見」 の噺を、なんで遣るんだとお思いでしょうが、過ぎ去った 「春」 を思い、

   更に 来年の 「春」 を頭に思い浮かべ・・・・まあ、何を言っても言い訳ばかりでございますなぁ 』

   って遣ってましたね) 今日の 『酢豆腐』 もで、『夏の盛り』 のお噺を なんでこんな 台風・嵐の日

   に遣るんだとお思いでしょうが、過ぎ去った夏を・・・これまた言い訳ばかりでございまして。

 

   『酢豆腐』

   「源ちゃん! おい源ちゃん起きなよ、よく寝られるね 暑い盛りにさぁ 源ちゃんてば!」

   「ん、ん むぁぁ~ ああぁ~ 暑いねぇ、こう暑くちゃあ~、とても寝てなんぞいられねぇ」

   「なんだぁ、嘘つきゃがれ。 今 おめぇ 鼾掻いて寝てたじゃねぇか! 暑いだろ、だから ゆんべ

   の続きだい。 暑気払いで 一杯遣ろうって寸法だよ、怠けてんのはさぁ 源ちゃん おめぇだけだ。 

   早く 井戸端 行って 顔でも洗っといで・・・よし、野郎が片付いたから ここに ちゃぶ台 出しとくれ。 

   ああ、それで良いね。 火ぃも ちゃんと熾しときなよ、湯も湧かして。 流しに 湯呑が洗ってある

   だろ、それ こっちに出して、此処に置いときなよ。 酒? ああ 酒は金ちゃんが酒屋行って二升

   提げてきてるんだ。 そうだ表に水打って 風が涼しくなるからさ、あまりたくさん撒くんじゃないよ、

   ぬかるんじまうからね。 良いか みんな聞いとくれ・・・・酒は 金ちゃんが 二升都合してくれたよ、

   湯呑も在るから いつでも呑めるよ。 だが 肴が無いんだ、酒呑みに肴は要らねえなんてぇ人も

   居るけどさ、俺は嘘だと思うよ。 喰わなくたって目の前に無きゃ寂しいじゃねぇか、何でも 良い

   んだよ。 銭がさ、ありゃ好きな物言やぁ良いんだが、ゆんべ 銭使っちゃただろ。 金が 掛かん

   ないで 何かおつな肴は無いもんだか考えちゃ呉れねぇか。 在るぅ! 銀ちゃん? 何んだい」

   「在ります! 私ゃね 世の中にこんな結構な酒の肴は無いんじゃないかと思うんですよ。 えっ、

   何かって? 『刺身、鮪の刺身』 暑い時にも寒い時にも酒にもおまんまにも良いんだ。 こんな

   結構な酒の肴は在りませんねぇ、中トロに ちょいと山葵を利かして食べてご覧なさい! 堪りま

   せんなぁ」

   「銀ちゃん、お前だけ帰って良いよ。 酒の肴に 『刺身』 が良いなんぞ、誰だって 知ってるんだ。 

   おめぇに 教わんなくたってな! そんなこたぁ 銭有る奴の台詞だ、銭が無いんだよ! 無い処

   でさ、なんとか考えて呉って 言ったんだよ。 そうだな、解りやすく言うよ・・・・安くて 数が在って、

   見た目が洒落てて 腹に痞えなくって衛生に良い なんて おつな酒の肴が無いか考えて呉って」

   「こんなの 如何だろね。 楊枝を買ってくるんだよ、そいでさ その楊枝を皆に一本づつ配ってさ、

   楊枝で こう 口ん中を突きながら一杯遣るって 如何?」

   「で、肴は何だい?」

   「肴は、その楊枝だよ!」

   「楊枝が 如何して 肴になるんだよ!」

   「如何してって、おめぇが言ったじゃねぇか・・・・安くて数が在る、楊枝で突きながら一杯遣ってら 

   表通る人にゃ なんか美味いもんで遣ってるように見えるから 見た目良いだろ、腹に痞えないし

   衛生的で 良いじゃねぇか」

   「よせやい! 歯の掃除しながら酒が呑めるかい。 無ぇのか これは良いってぇ 肴!」

 

   「なに? 人に頼ってばかりで、自分でも考えてみろって・・・在るよ、酒の肴くれぇさぁ。 台所の

   隅に 『ぬかみそ桶』 があんだろ? あん中に、ズズズ~ッと 腕を突っ込んで掻き回して御覧よ。

   隅っこの方に 忘れちまったような古漬けの一つや二つが在るもんだよ。 こいつをね トントンと

   刻むんだ。 で、そのまんまじゃ臭くて堪んねぇから ちょいと摘まんで 水に泳がせんだよ。 水

   から上げたら、刻み生姜と混ぜて 布巾で絞って、好みで鰹節掛けても下地を垂らしても良いし

   『覚弥の香々』 ってぇ奴だよ。 如何だい、こいつぁ酒の肴になるだろ!」

   「おい、聞いたか お前たち・・・これだ、これだよ 俺が聞きたかったのは! よ、苦労人 遊び人。

   銭が掛からねぇで おつな酒の肴になるじゃねぇか、恐れ入りました! じゃ、早速 『古漬け』 を

   桶から出してくんねぇ」

   「おいおい、よせよ! 俺が考えたんだよぉ 出すのは他の奴に出させなよ。 戦だってそうだろ、

   作戦考える奴と鉄砲持って戦う兵隊と違うじゃねぇかよ」

   「なんか大袈裟な事になっちまったよ。 どうもね、まぁ兵隊は幾らでも居るがな・・・誰か出して

   くんねぇか。 『ぬかみそ』 ん中に手ぇ突っ込んで 『古漬け』 を、なんだい みんな黙っちまった。

   え~と 松っつぁん、如何だい 『ぬかみそ・古漬け』 。 え、なに? 『古漬け』 って 聞いただけで

   全身の毛が逆立って 手ぇ突っ込んだら死んじまうって? もう良い、お前には金輪際頼まない。

   六さんは・・・・親父の遺言? どんな事があっても糠味噌に手を入れちゃイケない? もう良い、

   金ちゃん? なに 留守ですって・・・・本人が留守は ねぇだろ。 鉄ちゃん・・・『古漬け』 駄目か。

   あ、熊さん! え なに 仲間内で揉めちゃイケない? 大丈夫 『古漬け』 出るって! 嬉しいね、

   みんなが嫌がる事を 引き受けて貰って、なに 俺が出す訳じゃない? んん、出て来さえすりゃ

   途中経過は如何でも良いんだよ」

 

   「そうかい、じゃあ俺に任して呉れるね。 ほら 表を 『建具屋の半公』 が通るだろ・・・俺の独り

   舞台だ 任せて貰おう、みな黙ってなよ。 お~い 半公、半ちゃん!」

   「え? あ 熊さん。 ああ みんな集まってんな、何だい?」

   「いやね、暑いからさ みんなで暑気払いで一杯遣ろうってね。 お前も上がって付き合いなよ」

 

   「建具屋の半ちゃん」 が 「暑気払いで一杯」 の仲間に声を掛けられ 「ぬかみそ・古漬け騒動」

   に巻き込まれた処で 『酢豆腐・前編』 として、一旦休憩といたします・・・中編・後編に続きます。