「国立演芸場」 で 開催されております 「入船亭扇遊独演会・神無月の独り看板」 で、

   「一席目 左甚五郎・ねずみ」 を終えた 「師匠」 が、汗を 拭きながら 「二席目」 への

   「マクラ」 を始めます。

 

   私が所属いたします 「落語協会」、積立旅行会も ありましてねぇ 「大山詣り」 だとか

   「熱海に一泊」 だとかを 遣っていたんですが、最近は 「浅草寺参り」 とかに成ったり

   如何なっているんでしょうね。

   良く 「道楽」 って云いますが 「道落」 に通じる事も ございましてね、「趣味」 と云った

   方が良いようでございますな。

   「あいつは 道楽者だよ」 と言うより 「あの方は 趣味人だ」 と言った方が宜しく聞こえ

   ます。

   私の師匠の 「入船亭扇橋」 も趣味が色々とございましたですな。

   「俳句」 は有名で 私も 「俳句の弟子」 でございますが、「珈琲」 も好きでしたな 一日

   十杯は飲んだでしょうかねぇ、「蕎麦屋の燗酒、競馬」 も好きでした。

   「競馬馬」 の名前も様々ですな、私もいくつか知ってんですよ 「ハイセイコー」 とかね、

   「ハイセイコー」 ですか、それと 「ハイセイコー」 ね。

   「キタサンブラック」 が また 「天皇賞」 とか云うのを勝ったそうですが 「あの馬主」 は

   一体いくら稼ぐんでしょうね。

   「馬」 と申しますのは・・・・「尻尾」 は 「ヴァイオリンの弓毛」 になり、「皮」 は 「太鼓の

   皮」 になりますな。

   「噺家」 は 「太鼓」 が上手く叩けねぇと 「前座」 から 「二ツ目」 には上げねぇもんだと

   申します。

   「お囃子・三味線の皮」 は、「馬」 じゃあございませんで 「猫の皮」 が 使われるそうで、   

   我々 「噺家のお囃子」 は 「馬と猫」 には世話になっている訳ですな。

 

   「釣り」 が趣味と云う方も 大勢でございますが、「馬鹿の大関」 と云うのが在るそうで

   「釣れるか如何は 分からぬが、日がな一日 釣り糸を垂れる」 これが 大関でしてな、   

   「釣れます、釣れない! まぁそうでしょう、その水溜り昨日の雨で出来たんですから」

   「どうです釣れますか」 なんて後ろから聞く人が居ますな、まあ前に回って水の中から

   首出して見てるなんて人は居りませんが、荷を背負って 「うき」 と一緒に首を動かして   

   「大将、大将! 右 右の竿、トントンと 引いてますよ! ほら、引いてるって! 今、今

   スッと 竿上げねぇと 餌取られちまいますよ、大将、今だっ、 スッと!」

   「うるさいねぇ この人は! 私しゃね 楽しみで遣ってんだから、何処で上げようと 私の

   勝手だい」

   「そんな事言わないで、スッと 今 竿上げてくださいよぉ~ 私、急ぐんだから・・・・・ああ、   

   餌取られた!」

   人が釣るのを ず~っと見ていると云うのが 「馬鹿の横綱」 になるそうですが・・・「聞い

   とくれよぉ、大川で釣りをする人が居てね、それを三時間も ずっと見てる奴が居るんだ   

   馬鹿だね~。 そんな奴は居ないって? いや居るよ 居るんだよ、俺が橋の上からね、   

   そいつをずっと見てたんだから」 これは 「横綱以上」 になるんでございましょうね。

 

   『野ざらし』 (途中で、一部メモを落としてしまったので 『志ん朝・野ざらし』 が混じる)

   「ドンドンドン・・・・・・・」

   誰だい、こんな朝早い時間に表の戸を叩く奴は! ああ、分かったよ 開けるから 少し

   待って・・・痛い! 誰なんだねぇ拙者の頭を叩くのは、なんだ 隣の 「八っつあん」 じゃ

   ないか。  (「浪人・尾形清十郎」 の家に、「八五郎」 が遣って参ります)

 

   「戸が開くのに 気が付かなくて、叩いちまった。 先生、黙って一円おくれ!」

   「急に現れて、一円よこせは無いだろう。 八っつあん 一体どうしたんだい」

   「どうもこうも無いだろ、昨晩の玉は なんだい。 歳の頃なら 十六・八だぁ、何 それを

   言うなら十六・七か十七・八だと? 七 (質) は先月流がした! あの女は何処の誰

   なんだい、色白と云うか透き通る様に青白くってぇ奴だぁ。 惚けねぇで 白状しろい!

   先生、昨日俺に言ったろ。  向島行ってハゼ釣って来るから 大根煮て待ってろってよ、

   煮たって帰って来やしないじゃやねぇか。 癪に障って、煮た大根で一杯遣ってるうち

   寝ちまったさ、喉が渇いて夜中起きたら 先生の家で話声がするじゃあねえか、しかも

   女の声だ、こっちは覗いて見てたんだよ 壁に鑿で穴開けて ありゃあ何処の女だ!」

   「壁に穴? 在るねぇ 大きな穴を開けちまったな。 見られちまったんじゃしょうがない、

   それではお話ししましょう・・・昨夜のはな、こう云うわけだ」

   「なるほど、そう云うわけか!」

   「未だ何も話しちゃいないよ。 昨日は 向島で魚を釣っていたんだがなあ、雑魚一匹

   釣れず、間日か 天が今日は殺生ならずかと 帰りの支度を始めたらな 何処で打出す

   か遠山寺の鐘が陰にこもって物凄く ゴォ~~~ンと鳴ったな」

   「いやいやいや そう云うの嫌い! 気が小さいんだからぁ 止めましょうよ、話を陰気

   にするのは。 陽気に願いますよ」

   「まあ、この話は どうしても少し陰気になるがな 我慢して聞きなさい。 『四方の山々

   雪解けて、水かさまさる 大川の、上げ潮みなみ だぶりだぶりと 岸辺をさらう波の音』

   いやぁ物凄いもんだなぁ。 傍らの枯れ葦が 風もないのにガサガサガサと、出たかな

   と思う途端にな」

   「出た! 出た出た 嫌だよぅ・・・さいなら!」

   「待ちなさい待ちなさい! おい お前さん、いま ここに置いてあった私の紙入れ 懐に

   仕舞ったろ?」

   「あははは、見てた?」

   「見てるよ、こっちにお返し!」

   「怒っちゃいけません。 直ぐ怒るんだから・・・私、盗ったわけじゃありません、怖いな

   と思うと、落っこてるもんを拾う癖があるんで」

   「なにを言ってるんだ、落ちてるんじゃなくて置いたるの! 落ちてると置いたるんじゃ

   大変な違いだよ。 お前さん こないだ大家の処で良い時計が落こってるって、柱時計

   を持って行こうとしたそうじゃないか」

   「ああ、あの柱時計は拾い難いやぁ。 で 先生、なにが出たんです?」

   「んん そうだ、烏が三羽。 葦の中から烏が飛び立ったんだ」

   「えっ、烏? 冗談じゃないよ。 何が出たかと思ったら 烏! 烏なら烏と素直に言っ

   たら良いじゃねぇか。 烏が出たからってなんだい、おう!」

   「烏と分かって そんなに強がることは無い。 烏が塒に帰るには ちっとばかり時刻が

   おかしい。 なにか在るのではと気になってな、掻き分け 葦の中に入ってみると 生々

   しい髑髏だな」

   「唐傘の壊れた奴?」  「それは ロクロだよ (傘の骨をロクロと呼ぶとか)。 屍だよ」

   「屍? ああ、赤羽に行ったんですか」 

   「分からないかなぁ 人骨野ざらし だな。 不憫に思い、私が回向をして遣ったんだよ

   『野を肥やす 骨をかたみに すすきかな』 と手向けの句詠んで 『生者必滅会者定離、

   頓証菩提 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏』 と三遍唱えて 持っていた瓢に残っていた

   酒を掛けて供養して遣ったら気のせいか骨にポッと赤味が差したなぁ。 良い功徳を

   したと家に帰りゴロリと横になる。 夜中の二時ごろ 表でホトホトと戸を叩く者が居る

   誰かと問うと微かな声で 『向島から 参りました』 って 言うじゃないか、これは昼間の

   回向がかえって害になり狐狸妖怪が誑かしに参ったか、この尾形清十郎 歳はとって

   も武士の端くれ、まだまだ腕に 歳はとらせぬと 長押に掛けてあった長刀を掻い込み

   ツカツカツカと・・・・」

   「先生、ちょっと待っておくれよ。 大袈裟でいけねぇよ、ツカツカツカなんて そんなに

   広い家じゃねぇ。 ツカってぇと裏に抜けちまうよ」

   「これは話の形容ってもんだ。 ガラリ戸を開けると、昨夜のご婦人が 音もなくスッと

   入ってきて 『私が昼間 向島で屍を晒しておりましたが、貴方様の回向で浮かぶ事が

   できました。 お礼と申しても何も出来ません 首など肩など揉みましょう摩りましょう』

   って言うじゃないか。 この儘 娘を帰すも不憫に思い 四方山話に耽ったと云う訳だ」

   「するってえと 先生、昨夜のアレは・・・幽テキ・幽ちゃんかい? ふ~ん 結構ですな、

   え~っ怖くないかって? 怖くもなんともないよ、幽霊なんぞ髪を振り乱して顔が腫れ

   あがってるもんだよ、幽霊だって良いよ 昨夜の女みたいなんだったら、生きてたって

   もっと怖いもん いくらでも居るからね。 そうですか、向島行ってハゼ釣って来るって

   ハゼ釣って来ねえから ハゼなんだろうって不思議でしょうがなかったんだ。 あの~、

   向島に行きゃあ 未だ骨在るかい? 分からない、在るんだよ! 駄目だよ 独り占め

   しちゃ、今日から 釣り、始めよう! 先生、竿を貸しとくれ!」

   「清十郎」 が大事にしている釣竿を奪うように借りた 怖いもの知らずの 「八五郎」 が

   酒を五合買い込み 向島まで遣って参りますと。

   天気が良いので、大勢の人が糸を垂れております処に現れまして・・・おぃ、こんなに

   大勢かい! 一杯来て居やがるなぁ~ 知らなかったのは俺だけかい。 俺の釣る骨

   は在るかしら ねぇ・・・聞いてみよう。

   「お~い、如何だぁ~い! 骨は釣れるかぁ~い! コ・ツ・は 釣れるかなぁ~!」

   「あの、貴方のお知り合いですか? 誰? 何なんですかね、あの人は?」

   「お~い、何の骨を釣ってんだ おめぇは。 新造か年増か、子守り娘かい? 慌てて

   オカマなんぞ 釣るな~い!」

   「何でしょうアレ、ああ云うのとは関わり合いにならない方が。 あ 目が合っちゃった」

   「なんだ、あ、俺の事 嫌ってるな。 俺は嫌われると 傍に行きたくなる性質なんだい」

   「来ちゃいましたよ、呼んだわけじゃないのに・・・こう云う輩は気を付けないと。 良い

   お天気ですな」

   「なんだと、良い天気だ? こっちは 天気なぞ如何でも良いんだ。 さっきから聞いて

   いるんじゃないか 何の骨釣ってるんだって!」

   「何の骨って、ハゼを釣っておりますが・・・」

   「なに言ってやがんでぃ、ネタはあがってるんだ こんちきちょう。 骨の好きそうな顔

   しやがって、俺だって骨釣りに来たんだ。 朝から来たって、こっちが先に釣ってやる」

   釣り人の間に割り込みました 「八五郎」、骨を釣って 女が家に訪ねて来るのを妄想

   し始め、他の釣り客の迷惑千万を顧みず 歌い踊り 独り芝居を延々と展開致します。

   「あんた、あんた! もう少し静かにして下さいな。 寄ってきた魚が逃げちまいます」

   「なんだ 煩くって魚が逃げるだと、水の中の魚に聞こえるかい! 悔しかったら 魚の

   耳持ってきて見せろい」

   「どうでも良いけど 貴方。 さっきから餌が付いていませんよ。 餌が無いと魚が・・・」

   「良いんだよ 餌なぞ付けねえで。 そのうち鐘が ゴォ~ンと鳴りゃあ、こっちのもんだ

   『鐘が ボンとなりゃあサ、上げ潮 南サ、烏がパッとでりゃ コラサノサ、骨がある サイ

   サイサイ そら、スチャラカチャンたら スチャラカチャン』 と」

   「駄目だよ、アンタ。 竿で 掻き回しちゃあいけませんよ、掻き回しちゃ」

   「なんだと~掻き回すな? 掻き回しちゃいないよ、掻き回すってぇのは こうして・・・」

   「あああ、遣っちゃたよ、これは 竿上げた方が宜しいですなぁ~」

   「え~い、『そのまた骨にサ、酒をば かけてサ、骨がべべ着て コラサノサ、礼に来る

   サーイサイサイ そら、スチャラカチャンたら スチャラカチャン』 あ、あれ~」

   「あら、あの人 自分の鼻 釣っちゃいましたよ・・・・・」

   「ああ、鼻が鼻が・・・こんな物付いているからいけねぇんだ、えい 取っちまえ。 釣り

   に針なんぞ要らねぇんだ。 そろそろ来てくんねぇか・・・先生の処に来たのは 若過ぎ

   らぁ、贅沢を言わして貰うと 俺は年増が良いねぇ、色は年増にとどめさすってね」

   此処から暫らく妄想が再発いたしまして・・・・・。

   「あれあれ 陽気に騒いでいたと思ったら 水溜りに座っちゃいましたよ、大丈夫かね。

   今度は泣いてるよ!」

   なかなか骨が釣れないので 「八五郎」 は釣りを諦めて、葦の間を掻き分けて 「骨を

   探す」 ことに致しますと・・・「在った、在りましたよ。 これに瓢の酒を全部かけてっと、

   俺は残りの酒じゃありませんよ、買ってきた良い酒ですからね。 私の住まいは・・・

   と、お伝えしましたからね。 待ってますからね」

   この様子を 大川に浮かぶ 「屋形船」 の中で聞いておりましたのが 「幇間・新潮」 で

   ございます。

   「何だい今のは・・・逢引の約束かい? 住まいは聞いたし、行ってみるか。 祝儀が

   貰えるんじゃないか!」 と勘違い致しまして、夜更けに 「八五郎」 の家の戸を 叩き

   ますと 「八五郎」 が待ちかねたと 勇んで出て参ります。

   「おう、良く来て呉れ・・・・ん、誰? お前さんは誰だい 何者だ?」

   「へい、あたしゃ 『新潮』 と云います 『幇間・たいこ』 でございますが・・・」

   「なに、『新町 (「浅草新町」 には 「太鼓屋」 が多く並んでいたそうで) の 太鼓』 か、

   ああ あれは 『馬の骨』 だったか!」

   (此処で、「マクラ」 の 「太鼓は、馬の皮」 が生きてくる訳ですな。 「幇間・たいこ」 と、

   「幇間の名・新潮」 と 「太鼓屋が並ぶ、浅草新町」 が解るかな?)

 

   だいぶ長くなってしまいましたが、「八五郎」 が陽気に騒ぐ場面は割愛しています。

   また 入力途中で、ご操作を行って全部消してしまい最初から書き直しを致しました

   ので、記憶の混乱による誤表記が在りましたらお許しください・・・・・言い訳です。

 

 

 

 

 

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