電話に出たのは義父だった。

 

「お義父ですか?

昨日、健太郎さんと

女の人のこと話し合ったんです。

そしたら健太郎さん

ちゃんとわかってくれて

女の人とはちゃんと別れるって。

私にも子供達にも

申し訳なかったって。

私たち仲直りできたと

思ったんです。

だけど健太郎さん

夕べ帰ってこなくって

そちらに泊まったって聞いて」

 

「健太郎は夕べ

間違いなくうちに泊まった。

だからそれは心配するな。

今夜も泊まるって言ったら

責任を持って預かるから。

健太郎の気持ちが落ち着くまで

ちゃんとうちで預かるから

大丈夫だ。

ちゃんと家に帰るように

女とは別れるように

説得するから。約束する」

 

力強い義父の声。

 

「昨日健太郎さん

わかってくれたんです。

それが急に

帰って来なくなるなんて

昨日なにがあったんでしょうか」

 

暫く黙っていた義父が

口を開いた。

 

「……女だよ。

同窓会の帰り

健太郎は女と会って

お前と話し合ったことを

話したんだ。

そしたら、二人の関係が

奥さんにばれたんなら

もう家には帰る必要ないだろうと

女に言われたらしい。

奥さんにばれたなら

もう一刻も早く離婚して

私と一緒になれって言われたんだ。

私とこんな関係になった

責任を取れって、女が」

 

義父が気まずそうにそう言った。

 

「責任をとれって…

既婚者だってわかってて

その女は不倫してたんですよね。

そんな勝手なこと!」

 

「麗子、正直

お前がいなくちゃ事務所は困る。

お前がいなくちゃ事務所は

たち行かなくなる。

それは俺だって困るんだ。

健太郎はちゃんと諭して

お前のところに帰すから。

だからお前は事務所を頼む。

健太郎の事が

噂になっているせいか

最近仕事が減っているだろう?

このままいったらいつか

事務所は潰れる。

そしたら子供達の進学も

無くなるんだぞ。

お前だってそれは困るだろう?

だからなんとか

事務所で踏ん張ってくれ。

健太郎が正気に戻るまで。

健太郎はそれまで

ちゃんとうちで預かって話して聞かせる。

約束するから今は堪えてくれ」

 

確かに

夫の不倫が世間に

知られるようになって

仕事が減った。

 

田舎の小さな街では

こんな話は面白おかしく

すぐに広まってしまう。

 

事務所を守ることは

浅見家を守ることであり

それはなにより子供達の生活を

守ることでもある。

 

だから私が事務所を守る。

 

何よりも大事な

子供達のために。


「わかりました。

お義父さん

私子供達のために

なんとしてでも

事務所を守ります。

だからお義父さん

もし今夜も健太郎さんが

そっちに行くようなら

よろしくお願いします」

 

「よし!麗子

よく言った!

くれぐれも事務所を頼むぞ」


力を貸してくれると言った

義父の言葉が私の心を強くした。

 

私を大事と

言ってくれた義父の言葉が

私に力をくれた。

 

なにがなんでも

設計事務所と子供たちは

私が守る。

 

夫が正気に戻るまで。

 

 

 

しかし

既に

そう言った義父に

裏切られていることを

この時の私はまだ私は知らないのだ。

 

 

 

 


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