忘れられない人がいる。
70歳を過ぎ、こんなに美しくいれるなんて・・・
初めて見たとき、そう思った。
品がよいシルバーグレーの髪、陶器のような肌。
病院から支給される「病衣」を着ることはなく、きれいな色のパジャマの上に、ガウンを羽織っていた。
凛とした雰囲気の中に優しい笑顔。
あたたかい言葉をいつもかけてくれた。
あるとき、彼女の病室を訪れると、「今ね、ほほ紅さしていたの。このほうが顏色、よく見えるでしょう」そう言って、お茶目に笑った。
真っ白な肌に、うっすらと桜色のほほで笑うその女性は末期がんの人とは思えぬ美しさだった。
看護師の私は、いっけん元気に見える人がどんな道をたどるかをいつも見ていた。
だから、彼女のこれからが・・・・・おおよその予想がついてしまう。
そんな自分が嫌だった。
だんだんと・・・・
彼女は痛みを訴え、病床にいることが多くなった。
あのきれいなパジャマ姿はなかったし、ほほ紅もさされていなかった。
鎮痛剤の影響で意識が朦朧として、会話もちぐはぐになってしまった。
だけど・・・・
彼女は美しかった。
やっぱり美しいと思った。
この美しさはどこからくるのか?
「装い」だけじゃない、何か内側からあふれ出すものなのだろうか?
生きてきた姿がそこに映し出されているのだろうか?
その答えはずっと、わからない。
ある日、私が出勤すると彼女のベットは空っぽになっていた。
生きるとはなにか?
美しさとはなにか?
そんなことを20代の私の胸に深く残して。
旅立っていってしまった。
もう15年以上も前のこと。
だけど彼女を思い出すと、あの美しい姿が思い出される。
うっすらと桜色のほほで、笑っている。