佐賀住まい・福岡勤務の作業療法士の橋間葵です。
脳卒中後、運動麻痺が比較的軽いけれども日常生活で麻痺の手が使いにくいという方と出会うことがあります。
麻痺手を動かしていただくと、スピードや細かい動きが出来ても、「字が書きにくい」「皿を落としそうになる」「髪の毛をゴシゴシ洗えない」などの日常生活での麻痺の手の使いにくさが生じています。
このような場合、感覚の麻痺を伴っていることが多いのですが、感覚の麻痺がなかったり、感覚の麻痺が極軽度である方々に出会うことがあります。
そんなとき考えるのは、「他者から与えられる感覚の検査の成績がよくても、自分で手を動かしたときに感じる感覚の成績が悪いのではないか」ということです。
今回は「自分自身で手を動かしたときに感じる知覚:アクティブ・タッチ」について記しながら、軽度の手の麻痺にアクティブ・タッチが有効である理由についてまとめていきたいと思います。
アクティブ・タッチとは
アクティブ・タッチは、「能動的触知覚」や「パプテイクス」とも呼ばれる「手で自由に触ることによって生じる知覚」のことです。
一般的な感覚検査では、他者から触れられて触られた感覚がわかるかなど検査しますが、他者から与えられた感覚のみを検査しています。
アクティブ・タッチは、自分自身で能動的に動いた結果知覚される体の感覚の情報です。
能動的に手を動かすことで捉えることができる感覚情報で、皮膚表面に触れた感覚だけではなく、圧覚や筋肉が伸びる感覚や関節が動く感覚などが情報として大脳に到達します。
軽度の手の麻痺にアクティブ・タッチのリハビリが有効な理由
脳の表面ある神経細胞には、体の動きの最終指令を出すところ、体で感じた感覚が届けられる場所など、複雑な役割を持つ部位がたくさんあります。
アクティブ・タッチに関わる神経細胞も報告されています。
能動的に手を動かしたときに働く神経細胞が発見されています。
□ 単純な刺激には反応しないが、自発的な手や腕の運動のみに反応する神経細胞がある
□ 肘を他者から動かされても反応しないが、能動的に肘を動かしたときにのみ働く(前もって活動する)神経細胞がある
能動的に手を動かしたときにだけ働く神経細胞は、体性感覚野に存在しています。
元来、与えられた感覚の情報が伝えられると考えられていた体性感覚野ですが、自分自身で動かしたときにのみ反応する神経細胞が存在していることが報告されています。
能動的に手を動かしたときに働く神経細胞は、自分の動きを制御する指令を運動野から預かり、運動の命令と実際の運動の結果(感覚的な結果)と照らし合わせて、運動の指令が良かったかどうか照合を行うのではないかと考えられています。
よって、能動的に手を動かしたときに生じる知覚があることで、自分自身の体の動かし方をコントロールすることができます。
例えば、
ペンで字を書くとき…
普段使わないペンを握って字を書くと、ペンが手元からずれたり、思ってもいない字の形になったり、ペンを握る指が疲れたりするでしょう。
ペンが手元からずれそうな感覚が大脳に伝えられると、ペンを握りなおすような動きの指令が出されます。
また、思ってもいない字の形になった場合、指だけではなく、肩や肘の動かし方を変えてみるかも知れません。
ペンを握る指が疲れてしまったとき、手指の力を少しゆるめて対応する方もいらっしゃるでしょう。
自分自身で能動的に動いた結果、予想と異なった場合は動きの修正を行います。
軽度の麻痺の方が手を動かして何か物品を扱うときに異なった感覚が脳に伝えられた場合、新しい動きの指令が出るので、動きのコントロールのリハビリにつながります。
アクティブ・タッチを意識した自主トレ
① ハンカチの下にある物品の探索
・ハンカチの下に、五百円玉や鍵など形が異なる物品を用意して入れます
・麻痺側の手で、ハンカチで覆われた物品が何であるかを把握できるように、ハンカチの上から物品を探索するように麻痺手を動かします。
② コップの中の水の傾きの知覚を感じとる
・水を入れたコップを麻痺手で持ちます
・コップを水がこぼれないように傾けます
・コップの中の水がゆらゆら動く感覚やコップが傾いたときに指にかかる圧迫の感覚を感じ取ります。
最後に
今回は「アクティブ・タッチ」について記しました。
参考にしていただけたら幸いです。
引用・参考
1) 岩村 吉晃:能動的知覚(アクティブタッチ)の生理学
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sobim/31/4/31_4_171/_pdf/-char/ja
2) 岩村 吉晃:感覚系のモデリング「アクティヴ タッチの神経機構
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicejl1962/41/10/41_10_728/_pdf/-char/ja
☆*:.。. 最後まで読んでいただきありがとうございました。.:*☆