佐賀住まい・福岡勤務の作業療法士の橋間葵です。



脳卒中後、麻痺は出現しなかったけれども、高次脳機能障がいが後遺症として残っている方々から直接お話を伺ったり、ご家族の方々から家庭内で生じている症状について教えていただくことがあります。



「高次脳機能障がい」は、厚生労働省が策定した行政用語です。



〜高次脳機能障がい〜

✔️ 注意障がい

✔️  記憶障がい

✔️ 遂行機能障がい

✔️ 社会的行動障がい


注意障がいや記憶障がいは、神経心理学的要素や認知神経科学からの解明が進んでいますが、「社会的行動障がい」については、実態調査から集められた社会的な症状を総称した用語で、具体的な支援方法が明確ではないという実態があります。



今回は、「社会的行動障がい」について、どのような症状があり、支援をどのようにしていくのかまとめたいと思います。



 社会的行動障がいとは


脳卒中や交通事故などでの脳挫傷などで、脳にダメージを受けたことによって、「感情をコントロールできない」「パニックになりやすい」などの社会生活を営むにあたって、支障をきたすような一連の行動をさします。



出現する行動は、以下のようなものが挙げられます。



〜高次脳機能障害者支援の手引きより〜

① 意欲・発動性の低下
 

②情動コントロールの障害

③対人関係の障害

④依存的行動


⑤固執



 社会的行動障がいに対するリハビリテーション


社会的行動障がいに対するリハビリテーションには、具体的で明確にしめされたものはなく、患者さんによって対応を紐解くように探していきます。



「個々のケースに応じた適切な対応を探していく」ことが多いように思えます。



しかし、その中でも、村井らが述べている2つのポイントに着目していくことが大切だと思っています。



①一日の予定や週間予定などの生活リズムの確立:

生活を構造化することは、記憶や遂行機能への負担を減らし、臨機応変に考える必要性を減らすことにつながり、結果として社会的行動障害を減らす方向に作用する


②どのようなきっかけ・状況で生じるかという文脈の調査:

このような行動分析を行うことで、社会的行動障害を生じるきっかけや状況を避けることが可能となる

出典:社会的行動障害のリハビリテーションの原点とトピック



 当院での取りくみ


上記の村井らの2つのポイントに合わせて、当院での取り組みをご紹介いたします。



まず、入院中は1週間の予定は特段のイレギュラーなことがない限り、変わることはありません。



毎日の食事、入浴日の曜日などは1週間の予定としては変わりません。



1週間の決まった予定に合わせて、リハビリの時間も固定化させていきます。



突然の予定変更や、予期せぬイベントがあると、記憶や遂行機能に負担がかかるので、一定の予定で過ごせるように毎日のスケジュールが固定できるように調整していきます。



また、入院直後の方においては、どのようなことが起こると、社会的行動障がいの症状がでるか確認していきます。



社会的行動障がいをもつ多くの方は、入院直後はパニックになりやすいです。



1日の流れを紙面でお伝えしたり、予測されるパニックなどについて事前に対応策を患者さん本人や病棟スタッフと協議したりします。



また、リハビリの時間は病室に掲示したり、一緒にスケジュール帳に記入することもあります。



さらに、言葉の解釈が難しかったり、言いたいことを話し出すと止まらない可能性なども推測し、患者さん本人がストレスを感じる機会を減らせるようスタッフ一丸となって、症状の把握を行うようにしています。



 最後に


今回は、「社会的行動障がい」についてまとめていきました。



医療スタッフ側が患者さんの症状を理解して、対応を検討することで、症状の出現頻度を減らしたり、患者さんが行動を変えるきっかけ作りを行うことが大切だと思っています。



これからも、しっかり患者さんの症状を把握しながら、支援していきたいと思っています。



引用・参考

1) 村井 俊哉 他:社会的行動障害のリハビリテーションの原点とトピック.高次脳研究 第39巻第1号

https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/39/1/39_5/_pdf/-char/ja


2) 平成 28-30 年度 厚生労働科学研究 高次脳機能障害者の社会的行動障害による 社会参加困難への対応に関する研究班:社会的行動障害への対応と支援

http://www.rehab.go.jp/application/files/8215/6591/4352/201908_.pdf


3) 駒澤 敦子 他:高次脳機能障害者における社会的行動障害についての検討. 高次脳機能研究 第 28 巻第 2 号

https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/28/2/28_2_231/_pdf/-char/ja


4) 中 島 八十一:社会的行動障害がもたらす生活のしづらさ. 高次脳機能研究 第 37 巻第 3 号

https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/37/3/37_275/_pdf


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