『真夜中のパン屋さん 午前2時の転校生』 | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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『真夜中のパン屋さん 午前2時の転校生』(著/大沼紀子)

女性に振り回されてることが多いシリーズである。

第一作では突然希実が転がり込んできたり、希実の母親もこだまの母親も失踪するし、希実に執拗なイジメをしてきた涼香も女性だ。そもそも舞台の『ブランジェリークレバヤシ』を作ったのも女性の美和子だった。

第二作では弘基の元カノやら結婚詐欺やら、厄介な女性が登場した。

怪しい男性登場人物も増えたが、基本は女性だ。

作者は女性のほうが心の闇が深いと思っているのかな?と思ったところで、今作は厄介な男性が次々と出てきた。

これまた考えていることが分かりにくい人たちばかりである。

 

まず転校生の孝太郎。

いきなりマリオネットと共に登場って有り得ない。

その後も有り得ないを連発させるが、彼が希実に接触してきた狙いが二転三転していくので、彼の本音がどこになるのか分からなくなっていく。

直情型の希実には手に余る相手だっただろう。

そして不穏の大元。安倍周平。

こちらの質問をうまく煙に巻いてペースを持って行かれる。

手練手管に長けた相手は、やはり勢いだけの希実では太刀打ちできない相手としか思えない。

彼は最後まで何が真実であったか計り兼ねないところがあった。

もしかしたら志が誰よりも崇高過ぎて、手垢に汚れた一般人には奇人に見えたのかも。

そして美作医師。

こだまの父親で嫌味で自分本位な男であった。

第一作では彼の威圧的な態度にこだまも委縮していたが、今作でこだまは積極的に彼と関わろうとしてる。

これはキャラのブレというより、こだまが男の子として成長している証なのだと思いたい。

 

この三者三様、腹の底が読めない男たちに希実は見事に振り回される。

振り回されるが、自分の本能と感情を信じて足を止めない。真実を知るために突き進んでいく。

迷いなく行動する姿は勇敢だが、少し自分の身の安全を確保してから動いたほうが良いのでは、とおばちゃん読者が心配してしまうくらいだ。

本人は不本意だろうが、そうこうして関わる人が増えるたび、希実の表情が豊かになってきているのは嬉しい変化だ。

登場したときは常に怒ってばかりの、世間を馬鹿にしたように諦め隠れて生きていた子だったのに。

廻りの不器用な大人たちが見守ってくれていることで、彼女も心に余裕が出来てきたのだろうか。

今作で初めてのお花見を体験したり、学校で文化祭委員に任命され(結果として)積極的に文化祭に関わるようになったり、彼女が当たり前を手に入れる度にほっとする。

あと二作でこのシリーズは完結しているが、最後に希実が『悪くない高校生活だった』と言えるような結末が待っていることを願ってやまない。

 

このシリーズを連続読破しているのだが、実は図書館で借りてきている本である。

話が進むごとに伏線が増え、思わせぶりな謎が次回に持ち越されるようになってきた。

そして今作の終わり方は明らかに自作の布石でしかない。

次に図書館に行ったとき、果たして続きは棚に並んでいるのか。

最初に借りた時は5冊並んでいたので所蔵していることは確かである。

どうか前作の記憶が確かなうちに続きを借りれますように。