『瓢箪不動 三島屋変調百物語九之続』(著/宮部みゆき)
宮部みゆきさんのライフワークともいえる『三島屋百物語シリーズ』
聞き手が二代目の富次郎に代わって早四冊目。
まだまだ聞き手として新人と思っているうちに初代聞き手のおちかに迫る話を聞いていた。
おちかと富次郎では聞き方や話し手との向き合い方に違いがある。
何事もきっちりとしていたおちかと違って富次郎は何かとフランクだ。
話し手の心の解し方も違うようで、だからと言ってどちらが優位というわけではない。
それぞれの持ち味が出て、だからこそ代替わりした意味があるのだと思う。
今作はおちかのお産が近い事もあって『禍を近付けない為に』百物語をお休みしていた期間から再開していく間に語られた話で構成されている。
おちかのお産の助けになるからと、かつて三島屋を救ってくれた行然坊の紹介でやってきた語り手や、あまり百物語の良い顔をしていなかった長兄の伊一郎が縁ある人に頼まれて仲介してくれた話し手、さらに偶然立ち会った骨董屋で遭遇してしまった奇異にまつわる話。そして最後に百物語の語り手を手配してくれていた口利き屋蝦蟇仙人こと灯庵老人が寄越してきた話し手と、訪れ方は全て違う。
なかなか面白い仕掛けだ。
違うといえば、このシリーズ、一冊ごとに話の重さ、残忍さが違うように感じる。
話の内容としては残酷だったり酷い仕打ちを受けたりすることが多いが、その描写が惨たらしく描かれるか、事実を淡々と述べられるかと差が出る。
前々作『黒武御神火御殿』では話の内容も記述も悲惨さが際立った印象が残っているが、今回は起こった事件としては負けずに悲惨であっても繊細な描写がされてないので読後感の悪さは軽減される。
一巻ごとに掲載されている新聞社(このシリーズは新聞連載されていることが多い)が違うので、もしかしたら掲載紙によって過剰に残忍な描写はしないよう指示があったのかもしれない。
そんなわけで、今回は人の非道さが含まれる話でも気分的に闇落ちせずに完読することが出来た。
ただ第四話の締め方がどうも尻切れ蜻蛉みたいで気になる。
狭間村とその近辺がその後どうなったのか、残された『迷子』たちのは無事だったのか、行く末はどうだったのか。そして風払いが取りやめになってしまった詳しい経緯は?
本編を読めばだいたいの事は察しがつくけれど、諸々説明不足な気がしてしまったのだ。
そこだけが残念。
とはいえ、圧倒的な世界観を展開する宮部ワールドの前では些末なこと。
この夏三島屋の怪奇にどっぷり浸ってみてはいかがだろうか。