『クローゼットファイル 仕立屋探偵桐ケ谷京介』(著/川瀬七緒)
何かの技術、あるいは知識に特化した職人が事件を解くミステリーはよくお目にかかるが、衣料分野に長けた探偵役というのは初めてだった。
主人公の桐ケ谷京介はブランド(メーカー)と服飾系の職人や工場との橋渡しをする服飾ブローカーだ。彼の膨大な知識と人脈で依頼主の希望する技術をもった職人と繋がりをつけていく。
彼の才能はそれだけに留まらない。
着衣に残る皺や歪から、着ていた人間のクセや症状などを解析してしまうのだ。
初めは華やかなファッションに関する謎解きが展開されるかと思ったが、桐ケ谷の推理は人間の身体の不調が動きに制限を与え、それが着衣の皺となって現れるといったパターンが多く、装飾よりも人体解剖学に近い話になってきている。
しかも彼はこの特殊な能力のせいで人が隠している痛みまだ見抜いてしまうのだ。
おかげで痛みを察しながらも救えなかった人たちに対して今でも後悔の念を抱いている。
本書はシリーズ二作目で、前作で警察と繋がりを持ってしまった(らしい)桐ケ谷は、迷宮入り事件を追う南雲警部に協力を要請され、相棒の水森小春(ヴィンテージショップ店長にゲーム実況配信者)と共に被害者の衣類から事件を解くカギを探るのだった。
着眼点としては面白いのだが、迷宮入りの事件を再調査するという前提なのでどうしても被害者が出た後の話が多い。また衣類から危害を加えられた時の情報を読み解くので、惨い描写が続いたりする。
華やかなイメージで読み始めてしまったので、予想と違ってちょっとショックを受けた。
とはいえ、自分の全く知らない知識を示されながらの謎解きは魅力的で引き込まれる。
主要の登場人物も一癖も二癖もある人達ばかりで、見解が擦れ違っているようで合致しているようなやり取りは面白い。
新たな知識を蓄えた名探偵と(その仲間たちと)の出会いを嬉しく思う。