『江戸は浅草 盗人探し・桃と桜』(著/知野みさき)
以前に紹介した『江戸は浅草』の第二巻と第三巻。
まとめて読破しました。
江戸の六軒長屋の大家に拾われた真一郎がお江戸の謎や問題・困り事を解決するシリーズ。
長身の見た目に反して荒事には弱い真一郎だが弓の腕は侍にも引けを取らない。
それ以上に知恵と機転が回る切れ者で、数々の窮地を六軒長屋の仲間と共に切り抜けてきた。
今回も中(吉原)での窃盗事件や雪女の謎、辻斬りならぬ辻射りの犯人捜し、など事件が目白押し。
また三巻では真一郎が人殺しと間違えられてあわやの騒ぎにもなる。
真犯人が捕まった際の真一郎のぼやきが心に残った。
捕まった犯人は殺し以外にも悪事に手を染めていたのだが、真一郎はその男のことを『もったいねぇ』と言ったのだ。
捕まった男は算術も読み書きもでき、さらには筆が立つのでどんな字も真似出来る腕があった。また腕っぷしも良く度胸があって機転もきく。それだけの才があれば真っ当な仕事に就いて稼ぐことも出来たはずなのに。そう嘆いたのだ。
おりしも世の中闇バイトなるものが横行し、普通の人間が簡単に悪事に加担できるようになってしまった。
人手不足の昨今、真面目に働こうと思えばいくらでも真っ当な仕事はあるだろうにと、こちらも嘆き節が止まらない。
作中、真一郎たちのピンチに手を回してくれる人は、かつて真一郎や周囲の人に世話になったり縁がある者たちだ。
嘗て受けた恩や情を忘れずに返す。そんな当たり前が現代にも復権すれば今の若者も少しは生きやすい世の中になるだろうか。
今回は謎多き美女、お多香の出生の秘密が明らかになる。
只者ではないと思っていたが想定外の生い立ちだ。
短編連作と読みやすく読後感も良い。
時代小説初心者でも楽しめるシリーズである。