『まずはこれ食べて』(著/原田ひ香)
本作に限らず、原田ひ香の作品に登場する人物は一様に悲壮感がある。
なにかこう、じっとりとした物に纏わり付かれているような。
それはおそらく、彼ら彼女らが諦めている人だからだ。
諦めているというと自暴自棄な感じがするが、そこまで自分の立場を絶望視しているわけではない。
なんとなく不本意な現状を諦めて受け入れている、そんな感じの悲壮感なのだ。
この『なんとなく不本意』というのがポイントで、逃げ出したいほど酷い状態ではないし、原因の一端が自分にもあると自覚しているので誰かを徹底的に恨むことも出来ない。
閉塞感。
たぶん原田作品には平穏な毎日に隠れた閉塞感が詰まっているのだ。
今回もそうだ。
学生時代の仲間で立ち上げたベンチャー企業の『ぐらんま』は、困難な時期を経て大成し社員たちは多忙な毎日を送っている。
昨日と同じ今日を繰り返すだけで精いっぱいな彼らは、目の前のことに手一杯で自分自身を見失いかけていた。
そんなときに現れたのが家政婦の筧みのりだ。
御年50歳
むむ?同じ歳か。私は筧さんほど気が利かないし若者をピシャリと諌めるほど迫力もないぞ。
それはさておき、筧さんの素朴で丁寧で簡潔な料理が凝り固まった『ぐらんま』の従業員たちの心を解していく。
ようやく従業員たちの顔に明るさが戻ってきた矢先、ある人物の存在が再び彼らの心を掻き乱す。
そして筧さんにも人には心の内に秘めた過去を持っていて・・・。
当たり前の今日に妥協して生きていて良いのか、今いる場所は本当に望んだ場所なのか。
とりあえず厄介な事は力になる温かいご飯を食べてから考えよう。
『食事』の力を信じる原田ひ香の魅力を感じられる一冊です。