ユエが女性だという思わぬ事態発覚に、戦いの手が一瞬止まる。
剛士はその間に現状がどのように赴いているか見極めるために、素早く辺りを見渡した。
こちらも向こうもさしたダメージは受けた様子はなく、目下互角というところか。
泥沼に長引きくのも厄介だぞ、と眉間の皺を深くした、その時。
『おい、つるの。こっちの声が聞こえているか』
メット内蔵されたマイクから品川の声が入ってきた。
通信機能が設備されていることは察しただろうが、どの周波数を使っているかのチューニングはしてないはずだ。
自力で、しかもこの短期間で辿り着いたのなら大したもんだ。
「大将、どしたの?」
『どうしたのじゃねーよ、接続すんのにどんだけ時間がかかったと思ってんだ。やんちゃもほどほどにしてくれよ』
元々の羞恥心システムで使っていたところから当たりを付けて探ってみたので早かったが、こうゆう場合は先に向こうから基地に連絡をいれてくるものだろう。
突っ込みに似た愚痴を言いたかったが、それは帰ってきてからゆっくり言えば良い。
『今回のことは貸しにしておいてやるが、一個確認だ。
そこにいるユエは女性に間違いないんだな』
「よほどじゃない限り、間違いはないと思うよ。
テラと違って俺は男女の区別くらいはつくんでね」
普通はそうだろう。
モニター越しに見てる品川だって、顔を露わにしたユエが女性だということは判別がついた。
驚いたが彼女の姿を見たら納得せざるを得ない。だが、同じく基地の司令室に入っていた羽鳥がこの事実に誰よりも驚嘆しており、簡単には認められないほどの動揺を見せていた。
「ありえない・・・」
画面に映るユエの姿を凝視したまま、羽鳥は心が伴わぬほど気の抜けた声を零した。
「羽鳥さん、どんなデータがあんたのところへ回ってきてたか知らないけど、実際にユエは女の子にしか見えないじゃないですか。
それにそんなにショックを受けるほどの出来事ってわけでも・・・」
「違います、僕があなたの立場ならばここまで驚かなかったでしょう。
でもあの子は確かに男の子だったんです。僕は、僕はあの施設で彼らを見ていたのですから」
「はぁ?羽鳥さんがあいつらの居た研究施設に在籍してた?そんでユエが女のはずないって言ってるって?
んだよ、それ!もっと分かりやすく説明してくれよ!」
なにやら基地のほうでややこしくなっているらしい。
雄輔や直樹のほうも通信ラインが接続しているのか知らないが、剛士はあまり声が漏れぬような囁き声で言葉を返した。
『私は以前にあの能力研究施設で働いていたことがありました。
研究開発第一のやり方に付いていけず離職したのちに信介さんに出会い声をかけられましたのです。
『ユエ』と呼ばれる者の幼少時代も知ってますが、いくら子供でもあのような機関で性別を違えるはずはありません。
あの子は本当にユエなんですか?』
幾分興奮気味の羽鳥の言いたいことは分かったが、本当のユエというのが誰なのかは剛士には判断できない。
『カオス』として今まで戦ってきた相手なら、あの子に間違いはないのだろうけど。
「戦いの最中にお話とは余裕だな」
唐突に迫ってくるテラの剣に度肝を抜かれそうになる。
我武者羅に近い勢いで剣を振り下ろすテラは手が付けられない。
先程までは距離を測るようにしてたくせに、戦術の変わり身の早さはこちらを混乱させるためにしていることなのか?
「話の相手は羽鳥か。まさかそっち側に付くとは思ってもいなかったぜ」
「ってことはやっぱりお前らはあの人と会ってたのか?それじゃユエが男だっていうのは・・・」
「忘れたのか、俺たちは特殊能力の持ち主としてあそこに収容されたんだ。
さっきの心のときと一緒だよ、サンの兄貴があの施設全職員の記憶を書き換えていたのさ」
全職員の記憶を塗り替える?そんな大技がサンには出来たというのか?
そういえばサンが能力を使ったところは見たことがない。
彼の能力がそっちに特化してたとするなら、可能性がないことはないだろう、しかし。
「でも、いったい何のために男だと謀った?そんなことをする意味があったというのか?」
「おおありさっ!俺らの母親の二の舞を、ユエにさせるわけにはいかなかったからな!」
「兄さん!!」
ユエの素ままの声の叫びが耳を劈く(つんざく)。
そして憑り付かれたような攻撃を続けるテラの異変に、剛士はユエの泣きそうな叫びの意味を理解した。
目を血走らせ、肩を使った全身で荒い呼吸を繰り返すテラ。
彼の目尻や口元からは、攻撃によってではない流血が見られたのだ。
続く
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おいら、今から宴会でしゅ~~。
今日は不義理しますので、よろしくお願いしますm(_ _ )m