使っている武器は剣だが、その攻撃方法は飛び道具を使用しているものと何ら変わりはない。
右往左往と動かされていてはこちらの体力が消耗するだけだ。
無茶のような隙でも諦めず、懐に飛び込んでユエの特異な攻撃パターンを封じる他に手立てはないだろう。
直情径行なテラのことに気を回した、その一瞬を見逃さずに一気にしかけた。
僅かに見せた隙をついて攻め込んだつもりだったが、彼の顔を隠すゴーグルをはじくのが精いっぱいだったか。
それでも彼が動揺している今ならチャンスはまだ続いてる。
畳み掛けるように攻撃を仕掛けようと構えた直樹が、どうしたことかそこで動きをとめた。
眉根に力を込めた顔で、顔が露わになったユエを凝視いている。
そこに意外なものでも見つけてように。。。
「君は・・・」
呆けて掠れた声が直樹の口から零れた。
かなり無意識に呟いたと思える、心もとない声であった。
しかしその声がユエの耳に届いたとき、確かに彼は顔色をはたと変えた。
いや、果たしてその人を『彼』と表すべきなのか、どうか。
「君は、女の子、だよね・・・?」
声こそおぼろげで頼りない響きを伴っていたが、直樹の言葉は確信に近かった。
愛らしい目元や柔らかなラインの頬や額・・・。
確かに直樹の前で対峙していたのは、女性に間違いなかった。
「女だからどうだと?戦う相手には不足だとでも仰いたいのですか?」
剣先を向けられ凛とした声で言いきられては、直樹もまさか『基本的に女の子と戦うのは趣味じゃありません』とは言い出せない。
女性だからと馬鹿にしているわけじゃないのだが、男として最も戦いたくない相手であることに間違いはないのだ。
かといってここで手を抜いて戦える相手でもない。
どうやって穏便にコトを進めるか・・。
「え?ユエが女?!んなわけねーって!!
だってそいつ、前にバトルスーツを破いちまったときに胸なんてなかったぞ!」
なんという地獄耳なのか、サンと戦っている雄輔が横から素っ頓狂な声を響かせて割って入ってきた。
言いたいことはわかる、だが。
「ちょっと雄ちゃん!女の子の服を破るなんて、なにしてんの!!」
「え?だってそれは・・・」
戦っている最中の事故なのだし、こっちだって女の子なんて思ってないんだから仕方ないじゃないか。
そう言い訳しようとしたとき、サンが力いっぱいで雄輔の胸倉を捕まえた。
「オレもその話は聞いてないぞ、心の字。
よもやユエに不埒な行為を・・・」
「ちげーーーっし!!普通に捕まえようとして引っ掛かっけちっただけだよ!!
第一そんときゃテラだって居たんだからな!!」
話を振られたテラは面倒くさそうに舌打ちを響かせて、剛士との戦いからいったん引いて距離を持った。
「兄貴が心配性だから、黙ってそのままバトルスーツの改良に移っちまったんだよ。
視覚の記憶はユエが咄嗟に操作してたみたいだからさ」
「なに、四角の捜査って?」
苦々しく舌打ちをしたテラは、雄輔の誤変換には気が付いてないらしい。
面倒と思いながらも、当時に起こったことを説明してくれた。
「簡単に言えば、お前に幻覚を見せたってことだよ。
だからユエの胸元を見てたとしても、男のソレを見たと勘違いしたはずだぜ」
「ほら!俺、悪くねーし!!」
いつまでも胸倉を掴んでいるサンの手を振り払って雄輔は抗議した。
戦いにかこつけてセクハラなんて、イメージダウンの言いがかりも良いところだ。
こちらは幻覚なんて知らないから、余計な詮索までして頭がこんがらがっていたのに。
「でもさ、なんでノクと同じところに黒子のある幻覚なんて見せたの!
それで俺たちを混乱させるつもりだったわけ?」
「・・・特にそこまで意図して記憶に刷り込んだわけじゃなかったんですけどね。
あなたが一番強く心に刻んでいたモノが、たまたま引っ張りあげられてきたのではないですか?」
薄く笑いながらのユエの指摘に、雄輔はなんだか妙に恥ずかしくなってしまった。
だって、大騒ぎしていろいろ考えてたのが、結局は自分の思い込みのせいだったなんて。
ちらっと憎らしげな視線を直樹に送る。
お前が急に消えるから、こんなことになったんだぞ、と軽い恨みを込めて。
・・・・。
当の本人は雄輔の恨めしい視線など、まったく気が付いてないみたいだったが。
続く