以下の文面はフィクションです。
実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。
似てる人が居ても、それは偶然の一致です。
ですので、どっかに通報したりチクったりしないでください★
そしていろいろ問題があるお話ですので、そこら辺を笑って許せる方のみ先に進んでください。
・・・、頼むよ、マジで (ToT)
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大海の苗字は『崎本』であり、この家の表札にも仰々しい文字で『崎本』と彫られている。
しかし彼が『兄さん』と呼び共に暮らしている剛士の苗字は、間違いなく『靏野(つるの)』だ。
苗字が示す通り、二人は実の兄弟ではない。
高校卒業後に粋がって生家を飛び出した剛士が、路頭に迷いかけたところを大海の父親に拾われたのが事の起こりだ。
部屋は余ってるから、遠慮せずにここに居候しなさい。
食費は出世払いで良いし、なにより大海が兄弟を欲しがっていたんだ。
そんな言葉に絆され、また小学生の大海が可愛かったこともあって剛士は素直にその言葉に従った。
最初は人見知りだった大海も、勉強以外のことを沢山知っている剛士にはすぐに懐いた。
気の良い家主、厳しいけど温かい奥方、可愛い弟分。居候先としては申し分ない環境。
だけどそう長居も出来ないと考えていた剛士は、大海が中学に上がったタイミングでこの家を出て行くつもりだった。
あの事故さえなければ。
「そりゃさぁ、俺だってそれなりに覚悟はしてたよ?いつかは大海も自分の恋人を作って、俺に紹介すんじゃないかって。
だけどそれって、『彼女を』って前提で考えてたのよ。けっして男で、しかもあんな頼りない奴じゃないわけ。分かる??!」
いい加減に酔っぱらった真っ赤な顔で管を巻いてる剛士を、どうしたもんかと雄輔も直樹も対処に困ってしまった。
あのまま気を失った大海は、とりあえず寝室に寝かせてある。
彼の父親代わりを自負していた剛士にとっては、認めたくもない事態であることには間違いないのだが・・・。
「丹精込めて育てた大海が、あーんな奴に持ってかれたなんて、俺はケンさんやアキさんに合わせる顔がないよ」
何杯目だか分からない酒を呷ってから、床の間に納まっている仏壇を見やる剛士。
そこには古めかしい仏具に塗れて、真新しい位牌が二つ並んであった。
大海が中学に上がり、剛士が本腰を入れて新しい宿先を探し始めた頃のことだ。
この家の家主夫婦、つまりは大海の両親が事故に巻き込まれて急逝したのは。
突然の出来事に何も飲み込めてない大海を置き去りに、葬式は親族たちの手配で淡々と進められた。
もちろん、店子である剛士も出来る範囲で手伝ったが、近しい親族から『大海の側に居てやってくれ』と言われ、泣くこともできずに茫然自失としてた大海の傍らに控えていたのが殆どだった。
葬式もある程度終わり、限られた親族だけが残り話し合いが持たれた。
恐らく、大海の今後のことを、誰が引き取るかという話をしていたのだろう。
ずっと青白い顔のまま、弔問客に頭を下げていた大海。
全部がやっと終わって緊張の糸が切れたのか、身体を震わせながら剛士に縋ったきた。
『僕、ここから出てかなきゃいけなくなるのかな?ここに、父さんと母さんと暮らしたこの家にずっと居たいよ・・・』
我の強い子だが、涙脆い一面のある子だった。
それが今の今までずっと耐えて、そして我慢しきれずに剛士に訴えてきたのだ。
ここを離れたくない、と。
剛士の気持ちが固まるのは早かった。
泣いているままの大海の腕を掴んで、親戚たちの話し合いの場に入って行って頭を下げた。
自分が面倒を見るから、大海をこの家に住まわせてやってくれ。
両親を失ったばかりなのに、住んでいた家や住み慣れた街、幼馴染とも離されるなんて辛すぎる。
せめて大海が落ち着くまで、少しだけでも良いから時間を与えてあげて欲しい。
お願いしますと深く頭を下げる剛士の後ろで、大海が苦しそうにしゃくりあげながら泣いていた。
この哀れな子供に対して、大人たちが何を強要できただろう。
いくつかの条件が出されたが、結局は剛士の言い分が通る形となった。
その日から今まで、剛士はずっと大海を見守ってきた。
大海はどこか剛士に遠慮があるようで、なかなか弱音を見せず体裁を整えてしまう癖があったが、それすら剛士にはお見通しで、何かを抱えているときは必ず手を差し伸べていた。
言わずに分かってくれるから、なおさら大海は余計なことを口にしなくなったのかも知れない。
でも、黙って差し出した手をそろそろ離さなければいけない時期にもなっていた。
いつまでも子供じゃない。ましてや、剛士には最後まで見守ってやる権利もない。
自分で、自分の道を切り開くべき年頃に、いつの間にか大海もなっていたのだ。
「考えてみれば、俺が家を飛び出したの大海くらいの歳だったなぁ。
もっと大人なつもりでいたんだけど、大海を見るとまだまだ子供って思っちまうよ」
「ああ、そうだね。僕がここの家に来たのも大海くらいの歳だけど、なんかあいつは目が離せないな」
剛士の空いたグラスに酒を注ぎながら、直樹も苦笑交じりの顔で同意した。
知り合いの息子さんが東京での下宿先を探してるから、と大海の親戚に紹介されたのが直樹との出会いだった。
身元の知れた若者なら余計な心配も少ないし、仕事で遅くなる時に誰かが大海の傍に居てくれれば安心できる。
そしてやって来た直樹は中途半端な潔癖症を思う存分に発揮し、片付けが苦手な二人のせいで荒れかけた家の中は彼の出現でなんとか整理整頓を保つことが出来た。
・・・、直樹と入れ替わりで下宿に入った雄輔のおかげで、あっという間に家中はとっちらかってしまったが。
「で、つーさん的には親太郎に大海を取られるのはイヤなわけだ」
珍しくニヤつきもしない雄輔が、表情を落としたような真面目な顔で聞いてきた。
ただただ純粋な『興味』だけで何かを問うとき、雄輔はこんな顔をする。
「取られるって、言い方おかしかねーか?俺は一般論で言ってんだよ。
まだ何も出来ない小僧っ子が、誰かの人生引き受けようってのは無茶だろーが」
「それじゃ、親太郎自体がイヤなんじゃなくて、あいつがまだ未熟だからダメなわけ?」
「駄目も何も、お前・・・」
大海と全然タイプの違う親太郎。なのに二人は不思議と仲が良かった。
仲が良いというか、とても馴染んで一緒に居た。落ち着く隣、とでもいえば良いのだろうか。
無理に相手に合わせずとも、そのままの自分を曝け出してもすんなりと受け止めてくれる相手だった。
そしてあの事故以来、親太郎がどれだけ大海を心配していたか気が付いていた。
不器用な親太郎は余計なことも気の利いたことも出来ず、ただそっと大海のことを見続けていた。
その寡黙な視線の意味に、もっと早く気が付けば良かったのだが・・・。
「最終的には二人の気持ちの問題だからなぁ。あいつらが本気なら、俺が口挟む場合じゃなくなるだろ」
悔しくないと言えばウソになる。
丹精込めて育てた掌中の玉を取られて、悔しくないわけがない。
だけどそれも、大海が選ぶ生き方なら・・・。
「・・・、兄さん?」
降って湧いた声に、三人は驚いて振り返った。
恐る恐ると襖を開けて、まだ青っ白い顔の大海が中の様子を伺っていた。
「もう起きて大丈夫?」
直樹が持ち前の柔和な声と笑顔で問いかけると、大海は少しだけ安心したような顔になって部屋に入って来た。
「ちょっと驚いただけだから・・・。ごめんなさい、せっかく集まってもらったのに、こんなことになっちゃって」
「いや、それは良いんだけど、その、親ちゃんとは、いつから・・・?」
途端にかっ、と大海の頬が赤く染まった。
何がそうさせるのか、真っ黒な瞳も潤み始める。
こりゃ本物かもしれないぞ、と雄輔が剛士の顔を盗み見たときだった。
「僕たち、全然そんなふうじゃなくて、まさか親ちゃんがあんなこと言い出すなんて夢にも思ってなくて。
それよりも、親ちゃんが僕のこと、あんなふうに思ってるなんて気が付きもしなかったから、だから・・・」
なんと言葉を続けていいのか分からず、大海は眉根を歪ませたまま俯いてしまった。
いつまでも華奢な彼の肩が、今はことさら小さく見える。
「もういいよ、大海。お前の言い分は分かった。
親太郎がお前の気持ちも確認せずに先走ったってことなんだな?」
大海が無言のままで頷くと、剛士は天を仰いで深い息を吐き出した。
事態は、想像していたよりもややこしくなっていきそうだ。
「雄ちゃん、僕たちはそろそろお暇(おいとま)しよう」
「そう・・、だな。少し二人きりで話した方が良さそうだ」
あ・・、と、引き留めようと顔を上げた大海に、二人はいつもの明るい、ちょっと見方を変えれば小憎らしいような笑顔で彼の言葉を制した。
気にしなくて良いよ、こっちは欠片も気にしてないから。逆に面白いものが見れたよ。
そんな彼らの声に出さない言葉が伝わってくる、分かりやすく親しんだ笑顔だった。
またも、続く(^^;