可哀想に、訓練はしたかもしれないが、実戦の痛みを知らずにここまで来てしまったのか。
力尽きて立ち上がることすらできず、地面に蹲るしかない若き戦士たちの哀れな姿に、ユエは空しさを覚えずにはいられなかった。
彼らがどんな苦しい訓練を乗り越えてきたかは分からぬが、完全が確保されたお庭の中での特訓などたかが知れている。
戦闘に耐えうる体力や運動能力を身に付けることと、実際に身体を張って戦うということは根本的に別次元の話なのだ。
何に彼らは踊らされたのだろう?
正義の味方という、子供のころからの純粋な憧れ?
自分たちは世界を救えるという陶酔的な自己欺瞞?
それとも。
彼らも、大人たちに都合の良い駒として揃えられただけなのだろうか。
「準備運動くらいにしかならねーな。これならユエとやりあってる方がまだマシだぜ」
成すすべもない関の胸ぐらを掴み上げて、テラが鼻先でせせら笑うように言い放った。
恐怖よりも自信喪失で強張った少年の顔を、濃色のゴーグルの奥から物珍しそうに眺めている。
その視線が、ねっとりとまとわりつくのが関にも伝わっていた。
「俺たちを、どうするつもりだ・・・?」
殺すのか、とは聞けなかった。
それがまた甘いのだと、本当の戦いが何たるかを知らない子供の反応だと、テラは嘲笑を濃くして関を地面に投げ落とした。
「殺しゃーしねーよ。別にお前らには興味も恨みもねーしな。どの程度のもんか試しただけさ」
「テラ、いい加減にしてやれ。力加減が出来ないのはお前の悪い癖だ」
「そんなことを言うなら、俺は何度もサン兄貴に殺されかけたぜ?お互いさまだろ」
お互いさまの使い方が間違っています、とユエが訂正しなかったのは、優しさからではなく面倒臭かったからだ。
「すまないね、坊やたち。ただ、地球を守るなんて豪語するからには、これくらい痛い思いをしておいたほうが良いだろう?
本当の痛みを知らなければ、君らがしていることはバーチャルゲームと同じだよ」
そう諭しながら、サンはどうにか上半身だけは起こしている森に近づいた。
悔しさに塗れた瞳だけは力を失わず、無鉄砲な光を宿して彼らを睨みつけている。
限りなく不利な、壊滅的な状況でありながら挑む姿勢を崩さない。
あの男が気に入りそうな人材だ、と喉の下でほくそ笑んだ。
「そうだとしても、君が持つにはコレは少々荷が重すぎるだろう」
静かに腕を伸ばしたかと思うと、森の首元にぶら下がっていた飾り玉をもぎ取った。
それは森が抵抗する間もないくらいの、スムーズで滑らかな動きだった。
「アニキ、それが本物で他はただの反響板みたいなもんだぜ」
リアンたちのメンバーは胸元に象徴のような勾玉型の貴石を一様につけている。
それがどんな意味を持っているか、リアン達も詳しくは知らされていない。
「っ・・・、返せ!」
「子供が持つには危険なおもちゃだよ、これは」
取り返そうと手を伸ばした森の足を、軽くひっかけると彼はその場に力なく崩れた。
もう一度立ち上がろうと踏ん張った足元がよろけて、自ら地面に撃沈する。
力及ばない悔しさに、這いつくばった地面に爪を喰い込ませ顔を歪ませる森。
痛みも悔しさも心に刻んでおくと良い。
それが自分を強くさせようとする最大の原動力となるのだから。
キン・・・、と空気が割ける鋭い波動を感じた。
どうやらもう一つの目当てが来たようだ。
空の彼方に目を凝らす。
太陽のすぐわきに認めた小さな光の点は、瞬く間に大きな煌めきとなってその地に舞い降りた。
「・・・ようやく来たか」
まるで空に輝く太陽の分身のように、金色に輝くバトルスーツを纏った新たな戦士。
金を通り越して白にまで見えるその輝きは、目に焼き付くほどの強靭さだった。
そうやって彼らとは分けられるのだ。
光に在る者と、影に潜む者と。
続く(月曜あたりに・・・)