『お台場戦隊ヘキサレンジャー~最終章~』① | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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最終章の前の予習。



『お台場戦隊 ヘキサレンジャー』


『お台場戦隊 ヘキサレンジャー』②



予習が終わった方から、どうぞ。



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古い石造りの壁が地響きをあげていた。

もうすぐその古城が崩れ落ちるのは明白で、遠い玉座の上には最後の仕掛けを作動させた人がいる。

その場から逃げださなければ、建物を巻き込んだ爆発に飲まれるのは時間の問題だった。


「紳助さんも一緒に!!」


玉座に残ったままの男に向けて、雄輔が必死で手を差し出す。

恐かった、彼の悟りきった静かな笑みが怖かった。


「オレはよう行かん。カタをつけなあかんからな」


ほら、そんなことを言う。

どうにも弱みを見せるのが嫌いで、窮地でもなんとか取り繕ってしまう人。

誰よりも弱い自分を、無茶をしても隠し通そうとする人。



「紳助さん!!」


地響きは次第に大きくなる。

それでも今すぐあの玉座まで駆け上っていけば、ギリギリで彼を連れ戻せるはずだ。


「お前らが教えに行かんと、Paboも崎本も逃げ遅れてしまうで。はよ行ってやらんかい。

オレの心配なんてお前らには十万年早いんじゃ」


強がりを言う彼のもとへ向かおうと、かかとを踏ん張ったそのときだった。

剛士の手が、雄輔の肩をつかんで止めたのは。


「・・・、雄輔、直樹、行くぞ」

「でも!」

「俺たちのオヤジが、こんなところでくたばるかよ。今は紳助さんがいうとおりに逃げよう」


そんなこと出来ない、と必死に訴えかける雄輔に、剛士は黙って首を振った。

剛士のほうが下らないプライドを守る意味の深さを理解していたのかもしれない。

それが彼の望む道ならば、意に沿うことが彼への報いだろう。


すでに力尽きていた直樹に手を差し伸べ、その場を去る前に一度だけ彼のほうを振り向いた。

それでいいと背中を押すような、嚙締めるような笑みで見守っていてくれた。


信じてる。

絶対にこんなところであんたがくたばったりしないって。

自分で仕掛けた罠なんだから、きっと切り抜けてなんでもない顔して戻ってくるって信じてる。


「雄輔、直樹、急ぐぞ!」


剛士の声に急かされ、雄輔は何かを振り切るように走り出した。

それは取り残した紳助からでも、壊れていく古城からでもなく、これで最後になるかもしれない、という不吉な予感を振り切りたくて、ただひたすらに走り続けたのだった。





そうして紳助が消息を絶った後、幹部の神原が代行となって『お台場戦隊』の指揮をとるようになった。

もともとが基地に居つく人でなかったので、毎日の生活はなんの変化もない。


悪い冗談でしたって、そのうち帰ってくるよ。


剛士の慰めの言葉も、雄輔の心には響かなかった。

あの一連の紳助の表情が、ただの悪ふざけではないことを雄弁に物語っていたからだ。

何の意図があった彼はこんなことをしでかしたのだろう。


直樹に問うてみても、雄輔たちに会って意識を取り戻すまでの記憶はないという。

気が付いたらあそこで、雄輔たちと戦っていたのだと。

爆破されたアジトの後からは、何も出てこなかった。

全ては薮の中だ。


「どんな状況になったとしても、俺たちのやることは一つだ」


剛士の言葉に同意し理解を示した雄輔と直樹だったが、気持ちはいつまでも吹っ切れてないようだった。

こうゆうことは時間が解決してくれるのを待つしかない。

剛士も腹をくくって、二人が気落ちしてても気が付かないふりで通すことを決めた。


ただ、これで終わりではなかった。

彼が雲隠れしたことは、始まりの一端でしかなかったのだった。





「あれ?サッキーと直樹は?」


剛士が気が付いたときには、二人とも基地内に居なかった。

非番のときでも基地内に残っていることの多い二人が、揃って姿を消すなんて珍しい。

指令室に残っていた中村は、ほっこりとした笑みを浮かべてそんな疑問に答えてくれた。


「お二人とも午後はお出かけになられました。中野のほうに行くっておっしゃってましたよ?」

「中野?なんかイメージじゃないな。あの二人なら代官山とか三軒茶屋とかのほうが似合いそうだ」


剛士の頭の中では、中野といえば『中野ブロードウェイ』か『中野サンプラザ』に変換される。

彼はまっとうに昭和の人なのだ。


「なんだか舞台を観に行くとか言ってました。意外な共通点ですね」


中村の説明に、ふ~~んと気のない返事を剛士は返す。

あ、嫉妬してるな、と気が付いた中村は、こっそりと隠れて笑った。


彼らの兄貴分を気取ってる剛士としては、二人が自分の知らない話題で盛り上がってるのが面白くないのだろう。
剛士もそういうのは嫌いじゃないはずだから、なおさら置いて行かれたのが悔しいのだ。

本当に、過保護な人なのだから・・・・。


「あ、そーだ。つるのさん、今度みんなで演劇とかしてみませんか?

アクションOKのおにーさんも可愛い女の子も揃ってるんですから、きっとうけますよ」

「はあ!?なんで俺らがそんなことをしなきゃーいけないんですか?」

「だって楽しそうじゃないですか?

最近みんなふさぎ込みがちでしたから、ここらで一発パーっと派手なことしましょうよ♪」


ニコニコと柔和な笑顔で進める中村を前に、剛士は渋い顔をして項垂れていた。

これでちょっとでも同意しようもんなら、明日にはきっと台本まで用意されてる。

決断力と行動力、そして切り替えの早さは紳助譲りなのだから。


でも、彼女が道楽や思い付きだけでこんな話をしてるわけじゃないって分かっていた。

紳助が消えて以降、停滞ムードの基地内を活気付けようとしてくれての提案なのだ。


「ありがと、ひとみちゃん。気持ちだけは有り難く受け取っておくよ」

「あら、気持ちだけですか?残念ですね」


ゆったりとした佇まい。いつも明るく笑っていてくれてあったかくって、肩の力がほっと抜ける。

そんな彼女は、ここには間違いなく必要不可欠な人だった。


突っ走ってしまう人間ばかりの中で、彼女は後ろからそっと声をかけて呼び止めてくれた。

まっしぐらに走るのも良いけど、たまには呼吸を整えて下さいね。

あなたが居なければ、ボクラは走るという行為にばかり夢中になって、辿り着きたい場所を見失ってしまっていただろう。
なんて密やかで効き目抜群のブレーキ。


あなたが笑っていてくれたから、ボクラは・・・。


「でもせっかくですから資料は置いておきますね。

気が変わったら是非挑戦してみてください♪(o^-')b」


どさどさどさ・・・!と机の上に一抱えもある資料を持ち出して並べる。

その量といったら、殴って人を殺せるんじゃないかというくらいだった。


ひとみちゃん、マジっすか。。。


無言の微笑みに、今は無敵の重圧を滲ませている。

やはり彼女も紳助に見込まれるだけの女性なのであった☆






続く