注意1:
ここに書かれているお話はフィクションです。完全妄想だとご理解の上、お読みください。
(妄想のテイストが好みでなくても、怒らないようにお願いします)
注意2:
こちら、不定期連載になります。むしろ書きたいシーンだけ書くような荒っぽい仕上がりとなります。
注意3:
基本が『こんな役をドラマでやってほしい~♪』なので、イメージが違うことは覚悟しておいて下さい。
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あまり雑誌のインタビューは好きではないらしい。
そもそも愛想笑いとかおべっかとかを毛嫌いするタイプだし、こんなことに時間を割いているなら自分の仕事をしたいと思うような人だ。
しかしだからといってマスメディアを無下にするのが自分に不利益だと知っているので、精一杯の作り笑いで以前どこかで聞かれてたような質問に答えている。
これは、良い方の玉露を淹れておいてあげよう。
蘭子は接客用のお茶とは別に、雄輔の口直し用のお茶の準備を始めた。
緑茶には落雁が良く似合う。
深い翡翠の色をした玉露に、上質は和紙に包まれたお茶請けを添えて彼の前に差し出す。
珍しいことに、雄輔はお茶を口にする前に落雁の包みを解いて口に入れた。
「お疲れ様でした」
「まったく、どこもかしこも似たような質問ばかり並べやがって。
少しは独創性ってもんがないのか、今のマスコミは!」
建築関係の記者ならもっと突っ込んだ質問もくれるのだろうが、雄輔を面白がって紙面に起用したがっているのは現時点では一般誌の連中が多い。
おのずと質問の深さに差が出てくる。それが、なおさら雄輔を苛立たせる。
「でもどこもチーフを褒めてくれてますよぉ?
稀代の天才、近代建築の革命者!って」
蘭子がにこやかに広げた紙面を一瞥して、雄輔は鼻先でふん、と軽くあしらった。
「生憎だったな、俺は『天才』って呼ばれるのが嫌いなんだ。
なんでもかんでも『生まれ持った才能』みたいに他人事で片付けやがって。
こっちは事細かに計算した建築学以外にも、人の行動習性とか心理学的作用とか、そんなのまで取り入れてデザインしてるんだぞ?
まるで感覚だけでお気軽に作っているとでも思われてるなんて、心外なんだよ」
才能があるとか、デザインに向き不向きの人間がいることは確かだ。
ただ、何の努力もなしに神から与えられたものだけで成功してると思われるなんてまっぴらごめんだ。
「どんな業種の人間だって、上に行く奴は才能を上回る努力をしてるんだ。
そもそも、天才と呼ばれてその気になっている奴も、俺は認められないね」
そう思ってるんなら、全部さっきのインタビューで言えば良いのに。
と、心の中で呟いたのは凜子である。
凜子は凜子で腹の中に貯めておけない体質なので、これも面倒な相手なのだ。
お茶を一口すすり、もう一つ落雁を口にする。
甘いものを無意識に欲してる時は相当ご立腹なときだ。
世間一般に思われてるよりも、ずっと職人気質なのだろう。
蘭子も、この業界のことが分からないなりに、雄輔がどれだけのことをしているかは察していた。
一つのデザインを完成させるために、たくさんの公式と視点と知識を当て嵌めて考えいる。
閃きと感性が沸き起こるのを待っているような人では決してない。
だけど。
「でも私、天才でなくてもチーフのセンスは好きですよ(*^-^*)」
沢山考えて、いろんなデータや情報を組み合わせて、それでいてスタイリッシュで。
出来上がった雄輔の建築物を見せてもらうと、どれもウキウキしてくるのだ。
世界にココしかない、とても素敵な建物だなって。
「・・・、そうか、蘭子は俺のセンスが好きか」
「はい、詳しいことや難しい事はわかりませんが、チーフの作った家に住めたら毎日が気持ちよく生活できるだろうなぁって思います」
どちらかというと。
プロの小難しい翔さん、もとい、賞賛の言葉よりも、素人の率直な意見のほうが心を擽る。
余計な先入観も持たず、その本能だけで良いと感じてもらえることのほうが・・・。
「よし、蘭子が将来結婚して家を建てることになったら、俺が責任もってデザインしてやる。
ご祝儀と社員割引淹れて半額で仕上げてやるから、楽しみにしておけ」
「ちょっ!ダメよ、そんなの!!」
蘭子が素直に『ありがとうございます♪』という前に、凜子が割って入って来た。
「半額なんて言って、どーせ売れ残りそうな高いシステムキッチンとか入れる気でしょ?
原価高くされたら、半額にしてもらったって意味がないわっ!蘭子の家なら私がデザインするわよ!」
「はぁ!?何を言ってるんだ?一生使う家だぞ?初期投資を惜しんでどうする?!」
「必要不必要があるって言ってるのよ。そもそも男のあんたに蘭子が使いやすい家なんて作れるとは思ってないけどね。あんたは家庭用より商業用が向いてるのよ」
「はっ!これだからお嬢さんは困る。
女性が作れば女性が使い易い家になるってこと自体、古臭い固定概念としか言いようがないな。
男の冷静な目で判断して、家を作るからこそ、女性には分からないところまで手が回るんじゃないか」
二人の間に、激しい火花が見えた。
勢いとしては殴り合いになるんじゃないかという静かな間を置いたあと、雄輔は大きなデザイン紙をひっつかみ机一面に広げた。
負けじと凜子も大きなデッサン帳を取り出す。
「そもそもだな、女はやたらLDKを大きく取ろうとするのが間違いなんだ。
家族そろって居心地の良い空間、なんて言うのだってベストのサイズがある」
「あら?まずは家族があっての『家』でしょう?
共有スペースをきちんと確保するのは大切なことだと思うけど?」
と、二人はにらみ合いながらデザインを走り書きする、という神業を披露していた。
こんなときに取材陣が居ないというのは、まったくもって勿体ないことである。
「なんだその大きなサンルームは!それが余計だと言うんだ!!」
「知らないの?蘭子は花粉症なのよ!家の中で洗濯物が干せるほうがずっと楽なの!」
「だったら!!しっかりした浴室乾燥機を着ければ良いじゃないか!」
「はっ!太陽にさらして乾かしたほうが気分が良いってこと、男は知らないのね」
「こんな大きな開口部、家具やフローリングが焼けてダメにするだけだっっ」
一度始まったら止まらない二人のやり取りを、少し間をあけて蘭子と親太郎が眺めていた。
・・・、とばっちりを受けないくらいの距離を確保して。
「ねえ、蘭子さん。二人ともすごいリアルなデザイン描きだしてるけど、結婚する予定あるの?」
「ううん、全然。それどころか彼氏もいないのよね」
「それじゃあのデザイン画と喧嘩って、無駄になるだけなわけ?」
「でも二人とも良いストレス発散になってるみたいだから、あれはあれで良いんじゃなくて?」
そんなもんかな~~、と喉が枯れるほどの大声で言葉の応戦をしてる二人を見比べた。
ストレス発散になってると同時に、新たなストレスを貯めてるようにも見えるんだけど。
「とりあえず、今はお茶よりもお水が必要みたいですね」
一戦終わったらハーブティーでも淹れてあげようかな、と呟きながら蘭子はその部屋を下がった。
喉を振り絞ってやりあう二人に、クールダウンの意味を込めてお冷を持ってくるためだ。
論争に夢中になっている二人は、蘭子が部屋から出て行こうとすることにすら気が付かない。
ドアを閉じる直前に、そんな二人の様子をそっと眺めた。
彼氏はいないけど、でも・・・。
ふいに親太郎が振り返る。
そのときにはもう、そこに蘭子の姿は無かった。
続く