゚・*:.。..。.:*・゚ これは、ちょっと未来の、そんで、少し不思議、なお話。゚・*:.。..。.:*・゚
ピンポーン、と古典的な呼び鈴が鳴り響く。
誰だよ、せっかく眠った直樹が起きちまうだろ、と口を尖らせながら雄輔はモニターで外を確認した。
緩い癖毛を無造作に伸ばした男が、不機嫌そうな顔でそこに立っていた。
目深にかぶった帽子、無精ひげ、なんだかあまり縁起が良くない風体である。
「・・・、どなたですか?」
警戒心丸出しの声でインターフォン越しに言うと、相手は憤慨した様子で大声を上げた。
「ちょっと上地く~~~ん!それはないんじゃないの?木村だよ、木村公一!!」
その上ずったように高い声を聴いて、あ、と雄輔は思い出した。
直樹の仲間の一人だ。
前に会ったときは髭がなくって爽やかな感じだったので、すっかり分からなくなっていた。
「なんだ~、キムくんかぁ。わかんなかったよ(^^)」
「どうなの、それ?!仮にもロボットなんでしょ?顔認証機能とか、無いの?」
「あるかもしれないけど、反応出来なかった☆」
雄輔のすごさは何度か経験済みなので、木村はそれ以上は突っ込むことをしなかった。
彼をロボットだと思うと絶対に失敗する。天然ボケな人間とくらい思っておいた方が間違いがない。
愛嬌があるって言えば、そうなんだけどね・・・。
「どーしたのキムちゃん、ノックなら風邪で寝込んでるよ?」
「知ってる、だから手伝いに来た。上地くん、料理出来ないんでしょ?」
「え~~、でもちゃんと食べさせてるもんっ(  ̄っ ̄)プン!」
何を食べさせてるんだよ、と心の中で案じながら木村は勝手にキッチンに向かった。
思ったよりは綺麗に使われていたが、ごみ箱に散乱したレトルトお粥の空き袋に、やっぱりなぁとため息をついてしまった。
まあ、得体の知れないものを作って食べさせられるよりは安全かもしれないが。
「ノクの具合って、そうとう悪い?」
「う~~ん、トイレ以外は起きてこない感じ」
「そっかぁ・・・、じゃ、まだ軽い物のほうが良いか」
木村は持ってきたビニール袋から次々と食材を取り出した。
冷蔵庫はあまりあてにしない方が良いと思ったので、最低限の食材を持ち込んできたのだ。
どうやらここ数日はお粥ばかりのようである。
ビタミンとかミネラルとか考えると、ここは・・・。
「具だくさんのトン汁でも作るか」
よく煮込んで薄味にしておけば病人でも食べやすいだろう。
人参、大根、サトイモと順々に手に取っていったが、ちょっと悩んで、ゴボウはいれないことにした。
消化に良くないからだ。同じ理由でこんにゃくも却下。
定番の薄揚げ(油揚げ)もやめておこう。
ビタミンBが豊富な豚肉を入れるんだから、味のほうは問題ない。
そうそう、風邪にはネギもいれておかないとね。よく煮込むと甘みがでて美味しいんだ。
ひとんちの台所でテキパキと働く木村を、雄輔は物珍しそうに眺めていた。
だって、ロボットでもないのにこんなに無駄なく動けるなんてすごすぎる!
もしかして、キムくんって・・・。
「・・・、上地くん、何してるの?」
「キムくんのスイッチ探してるの。絶対キムくんってロボットでしょ?!」
「ロボットじゃねーしっ!てか、あんたにだってスイッチなんてないでしょーがっっ」
まったくもう
、とアヒル口になりながら黙々と作業を続ける。
暇にさせとくと、ろくなことをしないんだから。
そしてふと思い出すのは、昔、直樹についてきては自ら事件を引き起こしてくれた彼の数々の武勇伝。
ダメだ、彼は暇にさせておくと何をしでかすか分からない。
「上地くん?」
お鍋でコトコトお野菜を煮込んでいる間、ちょっとした試みをしてみようと思った。
うまくいけば、今後の直樹の役にも立つだろう。
「これから俺が言うことを、よっく覚えておいてね」
構ってもらうのが基本好きな雄輔は、満点合格の笑顔で大きく頷いた。
木村は、この笑顔を信じてはいけないことをまだ知らない。(ご愁傷さま)
「まずはこの小口鍋に水を300cc入れる。この計量カップで計ればわかるから。
それから和風だしの元を大さじ半分8gと、塩を3gを入れて火にかける」
うんうんと真剣な眼差しでガス台の上の鍋を見つめる雄輔。
この真剣さを信じていけないことを、まだ木村は知らない。
「で、ほら、ふちがぷつぷつして煮立ってきたでしょ?
お湯の温度が100度超えて30秒くらい置いたら、冷えたご飯120gを入れてざっくりかき混ぜる。
で、全体の温度がまた100度になったら、醤油小さじ一杯5ccくらいを入れて味つけする。
ほら、このくらいのかんじね?
そんで最後に解いた卵を流し込んで、軽く混ぜて蓋をして、10数えたら火を止める」
なにが出来るのだろうと、雄輔の顔は期待に満ちてキラキラしていた。
こんな子犬みたいな彼の従順さを信じていけないなんて、木村が知るはずもなかった。
「まだ触っちゃだめだよ、3分だけ我慢して。中を蒸らしてるんだから」
そういいながら、木村は作りかけのトン汁に味噌を解いてこちらの仕上げにも取り掛かった。
本当なら七味を添えたいところだが、病床の身に刺激物は良くない。
「上地くん、ノクが起きれるか聞いてきて。とりあえず夕飯は出来たよって」
「かーしこまりましたっ♪」
大きな図体のくせに、軽い足取りで飛び出していく。
役に立たないと嘆きながら、それでも直樹が彼を大事にする気持ちがわかる気がした。
(ただし、木村は雄輔の本当の意味での『すごさ』をまだ知らない、ってしつこい!)
一口、あつあつのトン汁を口に含ませた直樹が、腹の奥底から安心しきったため息を漏らした。
懐かしい味噌の味は、家庭の安堵感を思い出させるのだろう。
薄味だけでなく、野菜の甘みも十分溶けだしたトン汁は、弱った体に染み渡るはずだ。
「生き返る~~~。ほんっとうにキムが来てくれて良かった~~」
「そんだけ喜んでもらえたら俺も来た甲斐があったけどね」
ニヒルにダンディーに笑いながら、木村は卵おじやも出してあげた。
お粥とそんなに食感は変わらないが、味付けしてあるだけ気分が変わるもんだろう。
「やっぱ米だけじゃだめだぁ。力が出てこないんだもん」
「そりゃそうだよ、身体の中で病原菌と戦っているのに、お粥だけじゃ力が足りないよ。
この卵おじやの作り方は上地くんにもしっかり教えたから、次からは彼に作ってもらいなよ?」
「・・・、え?雄ちゃんに作り方、教えたの?」
あまりにキョトン、と驚いた顔をするので、木村は少し不機嫌そうに答えた。
「あのね、ロボットなんだから、正しい分量と手順を教えてあげたら出来るようになるよ?
最初からノクが『料理は出来ない』って諦めるから、それ以上覚えられないんだよ」
直樹は人に教える手間を考えたら、自分でやってしまったほうが楽ってタイプなのだ。
しかし、せっかくのロボットの性能を使いこなしてあげなくては、ロボットが可哀想すぎる。
こんなに直樹に懐いているロボットなのに。
「キムの気持ちは有り難いけど、雄ちゃん、教わってる最中に考えてることも上書き保存しちゃうから、余計な情報が入り混じって危ないんだよ
」
は?と直樹の背中にひっつき虫してる雄輔の顔を見る。
ほっぺたが溶けちゃいそうなほど、嬉しそうに直樹にくっついている姿は本当に可愛らしいのだが・・・。
「上地くん、さっき教えた卵おじやの作り方、暗唱してみて?」
「うん!鍋にお水を300cc入れて、元気が出るようにお酒を計量カップ一杯足して、御出汁の元とお塩をさじ一杯ずつで、ご飯入れたらサトイモと人参と大根いれて、蓋して10待ったらお味噌いれるの」
どうやら途中からトン汁が乱入したようだ。
「ね、すごいでしょ?次に聞いたらまた違うレシピを答えるよ?」
「ある意味、すっげーハイレベルだよ、自分で付け足すなんて・・・」
頭を抱える木村に、まだまだ甘いなぁと直樹は達観した眼差しを向けた。
どこかに被害が出る前に、早いところ自分が完治して雄輔の自由行動を抑制せねば。
こんな破天荒で楽しいロボット、扱い切れるのはボクしかいないんだから、ね![]()
「ノック~~、早く元気になってまた遊びに行こうな
」
続く