注意1:
ここに書かれているお話はフィクションです。完全妄想だとご理解の上、お読みください。
(妄想のテイストが好みでなくても、怒らないようにお願いします)
注意2:
こちら、不定期連載になります。むしろ書きたいシーンだけ書くような荒っぽい仕上がりとなります。
注意3:
基本が『こんな役をやってほしい~~♪』なので、イメージが違うことは覚悟しておいてください。
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それは麗らかな小春日和の朝だった。
落ち着いたダークブラウンの調度品で取り揃えられた来客室で、施行主である男と彼に従事する人たちに、設計図案を見せながら細かな説明する一人の男。
清廉な横顔と良く通る張りのある声でその建物の特徴をもっともらしく述べていくと、依頼主たちは心底感心したように頷きながら後を付いてくる。
商売をするうえで、見た目というか外見のイメージと言う物はそれだけで絶大な効果がある。
彼の整った顔なら、少々の無表情さはかえって真摯な態度にも見えたことだろう。
「で、こちらのドアなんですが、わざと重たく作ってあります」
「わざと?子供たちが開けにくくなるだけじゃないか?」
「簡単には開けられないでしょうが、そのぐらいの不便さが必要な年ごろではないかと思います。
ドアを開ける、という単純行為も意識して行うようになって欲しいのです。
油圧ダンパーを使用してますので、ドアが勢い付いて閉じることもありませんのでご安心ください」
男は説明をしながら、身振りでドアが間際になってふわっと閉じる様子を演じてみせた。
似たような扉の装置は他の場所でも見たことがあるだろう。
「ここに通う園児たちがお友達のためにドアを開けてあげる、なんて気遣いが出来るようになったら最高なんですけどね」
柔らかく微笑む男に、誰もが賛同するしかなかった。
彼(ら)が設計したその幼稚園は、シンプルだけど温もりと和やかさを大切にした建物となっていた。
床に使用したコルク材は、子供たちが転んでも衝撃を受けにくくなっており、さらには一角を畳敷きに替えてアクセントを付けた
大がかりな飾りやこった作りを排除したのは、子供たちの想像力を引き出すため。
それでいて、よく見るとどこか『当たり前』と違った形にあふれている。
「それとここなんですが、階段下の傾斜をそのまま下の部屋に現れるように残しました。
育ち盛りの子供たちですから、どこまで手が届くか競争でもして楽しんでもらえるかな、と」
今度は手を上げて天井を触るような仕草を見せる。
小さい子なら、どこまで手が届くかと競って比べそうだ。
「基本的に壁や床は装飾を入れない予定ですが、この階段下だけは文字を入れてみようと思ってます。
子供にも親しみやすいフォントを使って、もちろん色使いも明るい華やかなものにしますが。
そこに『ありがとう』とか『ごめんなさい』とか、そんな言葉を並べたいんですよ」
何故?と依頼主たちの視線が説明する男の、利発そうに澄んだ瞳に向けられる。
男はここぞとばかりに人懐こい柔らかな笑顔を浮かべて説明を続けた。
「子供たちがどこまで手が届いたかの目安になるものを入れたかったのですが、素直な言葉を口にするきっかけにも利用できるのではないかと考えたのです。
たとえ意味が伴ってなくても、優しい言葉に小さいころから馴染んでいることは大切だと思ったものですから」
それは男が用意した決め台詞でもあった。
多少の演技がかった言い方も、かえって年配の依頼主には感動的に聞こえたらしい。
彼は攻め寄るような勢いで身を乗り出し、この幼稚園を設計してくれた男の手をしっかりと握りしめた。
「先生、子供たちが安全で毎日を楽しく過ごせる学び舎を作ってやって下さい!!」
「それはもちろん。子供は未来の宝ですからね」
と、とてつもなくベタな展開のまま説明会は終った。
後はこのデザインで建設した際の予算などと割り出し、建設業者を交えた細かい打ち合わせに入る、という流れになる。
これからのほうが面倒な作業が山盛りなのだが、とりあえず最初の扉は開けたわけだ。
笑顔で御一行様を送り出したのを見届けると、男は応接室のソファー椅子にぐったりとなだれ込んだ。
普通のサラリーマンならネクタイを緩めるところである。
(残念ながら彼はノーネクタイの開襟シャツを着用していたので、その必要はない)
建築やデザインの素人に、こちらの意向や意図を伝える作業は一番骨が折れる。
どんな良いプランも相手がへそを曲げたらそこまでなのだから。
「毎度のことながら見事な説明だったよ」
両手に白磁のティーカップを持った男が緩やかににこやかに近づいてきた。
その穏やかそうな物腰を、憎々しげに見上げる。
「なんでお前が説明しないんだよ。まったく、面倒なことはいつも押しつけやがって」
先ほどの接客時とは打って変わっての荒々しい言葉づかいも気にせずに、やって来た男は手に持つティーカップの一つをテーブルに置き、もう一つのカップにゆっくりと口を付けた。
舌先に広がり鼻孔をくすぐる香りを十分に楽しんでから、彼はのんびりと言葉を発した。
「だって翔が説明したほうが説得力あるんだから、面倒でも引き受けてくれよ。
説明を噛んだりどもったりする相手に全部任せようって思えるかい?」
そう言ってもう一人のデザイナー、野久保直樹はそれはそれは爽やかに穏やかに笑って見せた。
どんなに言葉がたどたどしても、その笑顔で押し切れば誰でもOK出すぞ。
翔は反論したいの気持ちを、直樹が淹れてくれた紅茶と一緒に飲み砕いた。
「やっぱり朝はイングリッシュブレックファーストが似合うね」
なんて、翔が分からない紅茶の銘柄にうっとりしてる。
この頑固にマイペースな男に、あれこれ文句付けたって軽くあしらわれて終わるのが目に見えている。
今は余計な労力を使わない方が身のためだ。
「こんの隠れ俺様がっ」
「翔ほどじゃないよ」
べーっと舌を出す翔を楽しそうに眺めてる。
才能は認めるけど面倒なヤツをパートナーにしちまった、と翔はいつもの後悔を繰り返すのだった。
続く