以下の文面はフィクションです。実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。
似てる人が居ても、それは偶然の産物です。
妄想と現実を混同しないように気をつけましょう。
ちなみに、今回は(やっぱり)基本がBLです。
苦手な人は避けてくださいm( _ _ ;)ドウモスミマセン
しょせん素人が書いてるモノなので、過剰の期待はしないで下さいね~~。
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剛士から預かった鍵を使って店に入る。
裏から入って事務所を通り過ぎて店のフロアへ。
左手にまっすぐ伸びてるカウンター、その先にはバーコーナーが設置されてる。
『雄輔、またギリギリだな、急いで着替えておいで』
そんな輝の声が聞こえてきそうだった。
もうずっと、ここに拾われた時から彼女の声を聞いて仕事が始まっていたのだ。
いつでも追いかけるように名前を呼んでくれたあの人が、ここに帰ってくることはない。
もっと大事なものを見つけて、その先に行ってしまったのだから。
「途中でドタバタしちゃったけど、良いお式だったね」
直樹は手近なテーブル席の椅子に腰掛けていた。
いつものカウンター席に行かなかったのは、もうそこに輝が居ないからだろうか。
「ノックが『良いお式』なんて言ったら、文句言えなくなっちゃうじゃん!」
「雄ちゃんてばまだそんなこと言ってるの?けっこういいコンビだと思うけどなぁ」
だって、って思う。
心がモヤモヤする、輝が居なくなるのは単純に寂しい。
その原因を作った男があいつかと思うと、なおさら悔しい。
だけどそれでも、自分がしてあげれないことをあいつなら出来るのならば、それを輝が望んでいるのなら幸せになって欲しいと願う気持ちもある。
あっちこっちに、気持ちが飛んでしまう。
「雄ちゃん?」
だから、気持ちが落ち着かないから、直樹の背中にキュ・・・と抱きついた。
大きくてあったかい逞しい背中。
こうやって引っ付いているだけで、心のとげとげが柔らかく解けていく。
何かがじんわり伝わってきて、突っかかっていた物が外れてどこかに消えていく。
「ここは、オレだけの特等席だからね。
寝ちゃってても、オレの顔が見たくない時でも、ここだけはオレの好きにさせて」
直樹の背中に甘えてるだけで、眠気が襲ってくるくらい穏やかになれる。
何気に雄輔を襲う、日常の心を荒立てるものから救ってくれる。
同じように、自分の存在が直樹を悲しみから遠ざけていれたら。
過去の涙すら、忘れさせてあげれる存在になれていたらって、そう願わずにはいられない。
いつまでも。
「そんなことを確かめなくても、ボクは死ぬまで雄ちゃんの予約でいっぱいだよ」
くすくすと直樹が笑っているのが分かった。
いつでも笑顔でいて欲しい。
そのために何が必要なのか、どうしたら良いか方法がまだ分からない。
出来ること全てで、きみが笑顔であるようにと祈るだけ。
「なんだよ、三人でって言ったのに、二人の世界を作るなよ」
遅れて来た剛士が不満そうな声をあげた。
そりゃ、ぺったりくっついている二人を観たら、そうも言いたくなるだろう。
「も~~、イイトコなのに~~」
「あっ!雄輔ひどい!本気で邪魔者扱いした!!」
「二人ともやめてください(^^;。剛にぃもお疲れ様でした。
ところで後処理って・・・」
二人分のきょとん。と並んだ子供みたいな瞳に、剛士は成長してねーなと笑いをかみ殺した。
「崎本連れて、最後に塩沢に詫び入れてきた。向こうも笑ってたけど、ケジメはつけとかないとね。
そんで、地底奥深くまで落ち込んだ大海ちゃんを送り届けてきたわけですよ。
言っとくけどなぁ、あの子があんな暴挙に出たのは、雄輔にも原因があるんだからな」
「え?オレ?なんで??」
んとに心の機微がわからないやっちゃなーと、剛士は呆れた顔で続ける。
「お前がしつこく輝ちゃんのことを好きなんかって聞くから、変に意識しちゃったんだろーが。
あーゆー子はそーゆー何気ない一言に過敏に反応しちゃうんだからね、気をつけなさい」
それだけピュアな子だったのだろうけど。
人間、自分に無いものに惹かれるっていうから、あの若者が海千山千の輝に惹かれるのは仕方ないことなのだろうか。
「ねえ、剛にぃ、ひとつ聞いても良い?
お色直しでの入場曲、本当に塩沢さんがリクエストしたの?」
「んん?あれ?塩沢氏が是非ってさ。結婚式向きじゃないよって俺も忠告したんだけどね」
剛士は話しながら二人に外国産のビールを注いで渡してくれた。
仄かにあまいフレーバーのする、一風変わったビールだった。
「今はね、輝ちゃんとの『永遠』をちゃんと見てられるけど、いつか見失う日が来るかもしれない。
でも確かにその未来を信じていた日があったってこと、忘れないように、ってさ」
クサいけど可愛いこと言ってくれるじゃない?
言葉の最後に剛士がグラスを挙げたので、二人も釣られてグラスを寄せるように掲げた。
何への乾杯だか、考えもつかぬままに。
「永遠なんて知るもんでもないんだけどな。毎日の当たり前が、いつの間にか永遠になってんだ。
今日、大事に思う人を明日も変わらずに大事にすること。その積み重ねで十分だ」
「つーのさん・・・」
「大事にする方法は、その時でそれぞれだよ。
間違ったモノや相手に迷惑や不安かける方法を選んじまうときもあるだろ。
でもお前らはさ、相手が自分を大事に思ってくれてるってのはちゃんと分かってんじゃんか。
それで良いんだよ」
ふっとお互いの顔を見合わせる。
そうだ、彼がどんな対応をとったとしても、それが自分を労わって考えてくれた行動だということは伝わっていた。
考え過ぎてすれ違ったり、相手の求めることと違ってしまったこともあったけど、そこに潜んでいた思い遣りだけはちゃんと受け止めてれていた。
上手くいかなくて切なすぎて、気持ちがまどろこしく感じることもあったけど。
でもどんな至らない行為も、自分のことを考えてくれたコトだって知っていたから。
「おいこら、また二人で世界をつくるな。と言うか、イイコト言った俺を無視するな」
「あ、悪い、つい。
だって結婚式見てきたんだよ?気分も盛り上がるって」
「剛にぃも早くミキさんに会いたくなってんじゃないんですか?」
今度はうっと剛士が言葉を飲んだ。
三人だけで語るのなんて久しぶりだし楽しみにしていたのだけど、幸せそうな輝を見てたらやっぱり自分の奥さんに会いたくなってしまったのだ。
つるの剛士、相変わらず新婚気分である。
「ちっ、しょーがないな!今日はさっさと解散!
また別に機会をもうけましょっ」
ヤケ気味に立ち上がり、使った食器をシンクに放り込む。
どうせ明日にまた来るのだから、片付けるのはその時だ。
今はそれよりも。
一番大事な人が待っている場所に帰りたい。
「ほじゃーねー」
「おう、我慢できなくなって、公道で直樹を襲うんじゃねーぞ」
「しねーーって!!」
笑いながら手を振って、暗くなっていることをいいことにそっと手をつないでみる。
ずっとこの温もりのそばにいたい。
ううん、もっと昔から、出会う前からこの温もりを探していたような気がする。
「写真、撮り損ねちゃったね」
「いいじゃん、戻ってから二人で撮ろう」
そっと微笑む。
同じように微笑んでくれる。
こんな穏やかに微笑む直樹も、何度も恋に生き方に躓いて悩んでいたことがあった。
苦しんで涙を堪えて、だったら全部捨ててしまおうって、そんな解決策を選んでいた日々が。
だけどもう絶対に、直樹に諦めさせたりはしない。
何があっても懲りずに傍にいて、笑顔になれるまでずっと待っている。
また明日からは忙しい日常が始まって、すれ違ったりもしてしまうだろうけど。
ただ君がいて、幸せだと知れたこのときを忘れたりはしない。
君に出会えて、そして共に生きれることが喜びだと知った日のことを・・・。
失ったものは、みんなみんな埋めてあげる。
この僕に愛を教えてくれたぬくもり。
きみを守るため、そのために生まれてきたんだ。
あきれるほどに、そうさ、そばにいてあげる・・。
「雄ちゃん、面倒な性格のボクだけど、これからもよろしくね」
終わり