以下の文面はフィクションです。実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。
似てる人が居ても、それは偶然の産物です。
妄想と現実を混同しないように気をつけましょう。
ちなみに、今回は(やっぱり)基本がBLです。
苦手な人は避けてくださいm( _ _ ;)ドウモスミマセン
しょせん素人が書いてるモノなので、過剰の期待はしないで下さいね~~。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
その伴奏が流れると、直樹は驚いて顔をあげた。
剛士の歌の中でも1,2を争う評判の曲だが、あまり結婚式という門出のときに使う歌ではない。
「この歌、塩沢からのリクエストらしいぜ。一応つーのさんも反対したみたいだけど」
考え込んでいると、雄輔がわかりやすく答えを教えてくれた。
なるほどな、捻くれ者の彼らしい選曲だ。
まあ結婚ソングと言えなくもないが、出だしからして問題あるだろう。
『ああ、まぶしく晴れ渡る10年目の夏。どうして、こんなふうに色あせた空気に。
何も変わってない、終わってもない。確かに君は今も、そばに居るけど』
「・・・・(--;)。改めて聞くと、やっぱりこの歌詞、まずいよな?」
「そんなこと今さら言ったって、もう手遅れだよ」
その後も、恋は戻らないとか毎晩泣いてたとか、晴れの日に有り得ない歌詞が続く。
客のほとんどが剛士の歌声を楽しんで、歌詞を深く聞き取ろうとしてないのがせめてもの救いだ。
良い歌だ、剛士の声も一番良いところで伸びて響いている。
その良さがなんとか」歌詞の内容のヤバさをカバーしているようだった。
でも、この歌、改めて聞いてみると・・・。
「ノック、どうした?」
「ううん、なんだかこの歌の歌詞って、少し前のボクらみたいだな、って思って」
直樹が伝えると、雄輔も何かに気が付いたみたいにステージの剛士を凝視した。
ずっと一緒に居て、そのことに慣れて何の不都合もない日常が過ぎて。
だけど慣れてしまった分、置き去りにしてきた大切だった物を取り戻そうと喘いでみる。
それがどんなに難しいことか分かりながら。
「ホントだな、まるでオレ達みたいだ・・・」
雄輔が小さく呟いた。
まるで呆けたような言葉が余計に心に刺さる。
近くて遠くて、この距離感に慣れてしまったことを思い返しすとまた辛くて・・・。
『向き合えば、ゆがんだ顔で言葉をなげる。
違うんだ、こんなはずじゃないんだ・・・!』
畳み掛けるような歌詞に涙腺を刺激され、どうにか食いしばった。
直後、オリジナルアレンジで一瞬、曲と演奏が止まる。
会場のライトが入場口に集まり、司会者の『新郎新婦の入場です!』という明るい声が響いた。
ドアが開き、愛想良い笑顔を浮かべた二人の姿が見えると、再び曲が鳴り響く。
死ぬまで二人で、という歌い出しは、そこだけ切り取れば結婚式にうってつけだ。
沸き起こる拍手に答えながら二人が檀上に向かう間、後奏が引き延ばされて演奏される。
そして二人が席について会場を向き直ったタイミングで、最後の一節が静かに唱えられた。
遠い未来も二人で共に居ると歌う最後だけを強烈に印象つけて、その歌は終わった。
大役を終えてステージから撤収する剛士とバンド仲間にも惜しみない拍手が送られる。
彼の歌にどれほどの意味が隠されていたか、知る者は少ないだろう。
「見透かされてたのかな」
「たぶん、輝さんにもね」
そしてこれは、彼女から最後の忠告だったのかもしれない。
ずっと見守っていてくれた彼女の、さよならの代わりだったのかもしれない。
改めて自分らにとって大きな存在だった人が去ってしまったのだと、嚙締めなければいけなかった。
送り出されたのはむしろ、自分たちのほうなのだ。
これからはどんな事態になっても二人で乗り越えて行きなさいと、その手を離されたのだから。
テーブルに隠れた低い位置で、雄輔がそっと手を握ってきた。
恋人というより、小さな子供が母親の愛情を確認するときの強さに似ていて、直樹は逞しいはずの彼の手をしっかりと握り返してあげた。
大丈夫、ずっと傍にいるからと、彼に分かりやすく伝えるために。
続く