この物語はフィクションです。
実在する人物・団体・会社法人等とは一切関係ありません。
脳内の妄想産物と重々ご理解の上、お読み進め下さいませ。
いくら似てても気の迷いです!
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ナオキに促されて、ガラスのローテーブルに向かい合うように座った。
本当は隣に座りたかったのだけど、ちゃんと顔が見えるようにして話したいから、とナオキにやんわりと拒否されたのだ。
リラックスするようにと、たっぷりのミルクで煮出した紅茶を用意してくれたナオキ。
お砂糖を使ってない仄かな甘味が舌の上にゆっくりと広がって、心の内側がとても安心できて落ち着ける。
大きなマグカップを両手で包むようにして口に運ぶユウラを、ナオキは愛おしげに眺めていた。
小さな所作1つさえ見逃さないように、その瞳に焼き付けておくように、じっと見詰めていた。
「ユウラ」
その呼び声に、緩んでいた目元が反応して伺うようにナオキを見上げてくる。
半月型から、くるっとしたまん丸に変わる眦。
たかがコレだけのことに、彼女を愛しいと思う気持ちが溢れてきてしまう。
ゆっくりゆっくり、だけど止まることなく湧き出る優しさにも似た感情を、どう彼女に伝えよう?
こんなにもキミの存在が大きいのだと。
「ユウラはね、オレの源なんだと思う。
挫けずに顔を上げて生きていく力、辛いことも悔しいことも乗り越えられるって信じれる心。
人に優しくありたいって願うこととか、どんなときでも笑顔を忘れないでいれたりとか。
それって、全部ユウラがオレにくれてるんだ。
ユウラが居てくれるだけで、オレのささくれた心はすうっと癒されていく。
どんなイヤなことでも自分の糧になるって思えるし、嬉しい事があったらみんなにも分けてあげたいって素直に思える。
ユウラと居るときが一番安心するよ。なんにも考えずに、ただ幸せでいれるんだ」
そう伝えると、ユウラは恥ずかしそうに首を竦めて笑った。
彼女のそうした姿を見てるだけで満たされる。
心が奥の方から明るく暖かくなっていくのを感じる。
満たされているはずの日常に影を落とす物、その正体は・・・。
「でもね、たまに違うことを考えてる自分が居るんだ。
叶わなかった失恋にいつまでも想いを残して胸を焦がしてたり、溌溂と魅力的に輝いている人から目が離せなくなったり。
ユウラとは味わったことの無かったドキドキを楽しんでいたいって、そんな誘惑に引き込まれるオレが居るんだ。
こんなに、ユウラのことが好きなのに・・・」
ふいに捕らわれる感情は、いつだって魅惑的で刺激に溢れていて。
手が付けられないほどに膨らんで破裂しそうな衝動は、ナオキに別の世界への扉を開かせようとする。
イタズラ心だけで開けたら、もう戻れなくなる場所への扉を。
「ねえ、ナオキって私と居てもドキドキしたことないの?」
不本意というよりも、不思議な想いで問いかけた。
ユウラにしてみたら、『好きな人』=『ドキドキする人』という方程式は世間一般的に流用していると思っていたからだ。
だから、ナオキがこんなに自分の事を好きだと訴えてくれているのに、ドキドキしたことがないと言われたことが理解出来なかったのだ。
「ドキドキっていうか、ユウラはもっと柔らかい感じだよ。
ときめくっていうよりも、好き過ぎてくすぐったいっていうほうが合ってる。
心臓がバクバクしておかしくなっちゃうんじゃなくて、浮かれて舞い上がっちゃう感じかな?」
「・・・、どう違うの、それ?」
「全然違うじゃん!!ユウちゃん、本当に乙女なの??」
三十路越えて乙女と言われても・・・、という反論は自虐的なので胸の奥に仕舞っておいた。
「う~~んとね、だから、見てるだけで胸が高鳴って名前呼ばれたりするだけで衝撃的で、近付きたいけど近寄りがたいって言うか、高嶺の花的な憧れっていうか、この心の機微が分かんないかなぁ?
そうゆう劇的な感情に浸っていたいって思っちゃったりするわけよ。
だけど、ユウラの場合はもっと近いの。
目の前にいたら隣に行きたくなる、隣に行ったら手を繋いだり身体をくっつけたくなる。
遠慮が無いっていうのかな、境目がないんだよ、オレとユウラの。そうゆう嬉しさなの」
ますます分かんないな~~~と頭を悩ませながら、一生懸命にナオキの言葉を要約してみた。
恋愛経験が豊富そうで単なるミミドシマなユウラなりに。
「結局さぁ、格好良い人とか見て、『美人だなぁ、素敵だな』って眺めて満足してるんでしょ?
だけど、わたしとはくっついて無いとイヤなんでしょ?だったら問題無くない?」
そんなザックジャパン、もとい、ザックバランに纏められましても~~~![]()
今度はナオキが頭を悩ませる番である。
常に健やかな愛情に囲まれ、好きな人は好き!(≧∇≦)という素直な感覚を貫いてきたユウラに、『好きにも種類がある』というココロの惑いをどう理解してもらおう?
「分かったよ、ユウラ。もっと分かりやすく言うね。
魅力的な女性に弱いオレが、まかり間違って浮気なんかしないようにちゃんと捕まえていて」
「ナオキが浮気って、尚更想像ができな・・・」
「いーーから!もうこれ以上は簡単に説明できないんだよっ!これで納得して!!」
泣きそうな気持ちで叫びながら、なんか違うとナオキは思った。
もっと深刻に真剣に自分は悩んでいたはずだ。
ユウラのことは大事過ぎるくらい大切に想っている。
なのに別の人に気を奪われて浮かれている自分が、許せなくて納得できなくて。
それ以上に、傾いた感情がそのまま自分が流れていかないか恐いとさえ思っていた。
全てを解決するために、ユウラとの関係がおかしくなるのも覚悟で心に蟠っていたものを打ち明けた。
彼女を傷つけたとしても怒らせたとしても、ユウラだけを愛してるなんて嘯いているよりは真実を告げたほうがよっぽどマトモだと思ったからだ。
なのに。
この、ホームコメディのような結末はなんなのだろう?
つづく