以下の文面はフィクションです。実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。
似てる人が居ても、それは偶然の産物です。
妄想と現実を混同しないように気をつけましょう。
ちなみに、今回は(やっぱり)基本がBLです。
苦手な人は避けてくださいm( _ _ ;)m
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耳の端っこに確かに届いた。
小さな声、いや、遠いから小さく聞こえるのだ。
続くガチャンという金属音が響いてからようやく目を開けれたが、もう手遅れだった。
『行ってきます』
その一言を残して、直樹が仕事に行ってしまった。
僅かでも良い。
彼が働きに行く前に見送ってあげたいと願うのに、どうしてもその時間に起きれない。
同じベッドで寝ていれば彼が起きる時に目が覚めるかと思ったのに、今日もまた寝過ごしてしまった。
微かに直樹の温もりが残っているようで、なかなかベッドから起き上がる気にもなれない。
彼をしっかりと抱き締めたのは、いったい何時が最後だったろう?
「さらっちまおうかなぁ・・・」
今から駆け出して行けば追いつける。
そのまま無理に連れ戻して、仕事なんか行かせないでどこかに旅立つことも出来る。
何もかも忘れて、二人っきりで。
「んなの、無理に決まってんじゃん!」
パフンと寝返りを打って、苦笑したまま瞼を閉じた。
直樹は何時だって現実の中で生きている。
思いつきのような雄輔の我が侭に付き合ってくれる限度がある。
無理を言えば、直樹を悲しませて追い詰める。
雄輔の望む事を叶えてくれる人の元へ行ってくれと、訳の分からない結論を導き出す。
違うのに。
直樹だから、何もかも投げ出しても一緒に居たいのに。
一緒に居てくれれば誰でもいいだなんて、そんな浅はかなことを望んでいるわけじゃないのに。
「遠いよ、ノク。遠すぎるよ。もっと傍にいてよ・・・」
彼にこの気持ちはちゃんと伝わっているのだろうか?
自分にとってたった一人は、彼でしかありえないという事実が。
次に目が覚めたのは携帯の着信音だった。
随分と日が高くなっている。もう昼も過ぎた時間だろう。
自分の休日だからと言って、少し油断しすぎた。
「なに、ヤマヤン?どーかしたの?」
まだ上手く動かない口で、もそもそと言葉を洩らした。
地元のダチからの電話。
大概が雄輔と似た人種ばかりで、前触れにの無い連絡は大抵宴の誘いだ。
『ハズミがよ、やっとまっとーな男を捕まえて、もうじき籍も入れるんだとよ!
これから忙しくなるみたいだから、その前に地元連中でお祝いしてやろうかって思ってさ』
「なに?何処に居んの?」
『まだ家だけど、夕方にはタカトシの店に集まるコトになってる。
タカも店を貸切にしてくれるって言ってるしな。おまえも来るだろ?』
夕方、まだ時間が少しある。
気分とテンションを整えるには充分な時間が。
「分かった、いつもの時間くらいにはそっちに着くようにしとく」
『おう!楽しみにしとるからな』
不躾で憎めない仲間たちの顔を思い出す。
ガキのころに戻ってバカをするのも悪くない。
「っと、その前に洗濯物を終らせなくちゃ」
鼻を鳴らして笑うとベッドから飛び起きた。
家で腐っているのは似合わない。
『元気な雄ちゃんが、笑ってる雄ちゃんが好きだよ』
そう言って、直樹はとっておきの笑顔を見せてくれた。
だったら元気でいよう。いつでも笑っていれる心を保とう。
そうすればきっと直樹も笑ってくれる。
雄輔の大好きな笑顔を、見せてくれる。
何よりも大好きな、あの笑顔を・・・。
続く