どのくらい、の時間がたったのか分からない。
だけど前髪をゆっくりと風が揺らすのを感じて、微かに鳥のさえずりが聞こえた気がして。
ボクは恐る恐る目を開けた。
どういうことだろう?
恐怖で瞼を閉じたときと、何一つ変わらない風景がそこに広がっていた。
違うのは、空に浮かんでいたあの光の玉が消えて無くなっているってことだけ。
何がどうなっているのか理解も出来ず、ボクは身体を起こした。
同じようにきょとん、と腑に落ちない顔をした彼も、ボクから身体を離して起き上がった。
見渡す限りの平和な世界。
まだ淡い色の緑も、湿気った土の間を行き来する小さな虫も、風に流される千切れた雲も。
全てが淡々と、あるがままの姿で時を刻んでいた。
「なに?ここは天国なの?」
彼が不可思議な顔でそう問うので、ボクは彼のふにっとした頬を摘んであげた。
「っちょ!何すんのっ、痛いって!!」
「痛いの?じゃあ、これって現実・・・。」
「そうゆうことになる。。。。。んん?
ノック違う!頬を摘むのは夢かどうか確かめるとき!天国かどうかはつねっても分からないでしょ!」
「だって死んだら、痛いのも分からなくなるじゃん」
ボクのもっともらしい答えに反論できなくなり、彼はうっと息を呑んで悔しそうな顔をした。
唇をきゅっと結んで、眉をちょっと寄せて。
不貞腐れてるような、甘えているような、彼のお得意の顔。
また見れるなんて、思わなかったよ・・・。
「街に戻ろう。ここじゃ何があったのかわかんねぇ」
彼が手を差し出してくれて、ボクは一緒になって立ち上がってここを去ることにした。
振り返ってみても、当たり前の自然が当たり前の営みを静かに続けているだけ。
こんなふうに周りの雑音に惑わかされず、自分のすべきことだけを遂行できるようになれたら。
ボクは心の中でその場所にありがとうと呟いた。
探してももう二度と来れないような、そんな気がした。
ゆっくりと走る車の窓から、行きと全く違った光景を幾つも幾つも見た。
人々が肩を寄せたり抱き締め合ったりして、お互いの無事を祝福している。
あちこちに破壊の跡が残された街角で、溌溂とした笑顔を交わしている。
どっちも人間の真の姿だ。
迫る恐怖に耐え切れず凶行に走るのも、見ず知らずの相手と命あることを喜び合うのも。
あの光はボクたちに、誰もが抱える心の弱さと闇と、そして、ただ生きている事がどれだけ素晴らしいことなのかを教えてくれたのかも知れない。
「うわ、すげーことになってる」
辛うじて機能している自販機の前で車を止めた彼が、携帯を開きながら呟いた。
お前のも見てみろよ、と目で指図するのでボクも携帯を取り出してみる。
もちろん、すぐに彼の言いたいことは分かった。
着信履歴が半端無いことになっていたのだ。
きっとみんな、思い出す人に片っ端から連絡をいれているのだろう。
この数だけ、ボクらは誰かと繋がっているのだ。
ひとつひとつに返信するには時間が足りなそうで、ざっと発信者の名前だけを追いかけていった。
懐かしい人、馴染みの人、大切な人、沢山の人の顔が浮かんでくる。
ボクを案じてくれる人たちの顔が・・・。
そんなふうに携帯に気を取られていたら、背中に隙が出来てしまったらしい。
ぱふんって後ろから、甘えるように肩に顎を乗っけて、彼が身を寄せてくる。
たまに背中に飛び乗ってくるけれど、今日はゆったりと手をボクの前で組んで引っ付いてきていた。
彼に背中を取られるのは、もはや日常茶飯事だ。
『そっか~、考えてみたら直樹は見えて無いんだよね』
彼の甘えっぷりを苦笑しながら眺めていたその人は、やっぱり苦笑しながら教えてくれた。
『雄輔さ、直樹の背中に懐いてるときが一番リラックスした、にやけた顔してるんだけど、後ろから来られてるから直樹には見えてないんだな。
呆れるくらいの甘ったれた顔してるんだぞ?』
ねえ、今もそんな顔をしているの?
不精に伸ばした髭や痛んだ髪の毛先が触れてくすぐったいけど、どんな顔をしているかはやっぱり見ることは出来ない。
確かめたいけどあまりに至近距離なので、ボクは彼の『一番にやけた顔』を見ることも出来ず、ただ、彼が安心して甘えられるようにしっかりと足元に力を入れた。
これから彼が向う先に、果敢に挑む未来にもうボクは居ないのかも知れない。
いつだって彼が背負うものは多すぎて果てしなくて、その一つ一つに向けられた愛情は深すぎて。
ボクなんかが到底適うもんじゃなかった。
だけど疲れた彼が、人恋しくなった彼が安心して甘えられるボクであるように。
まっすぐに突き進む彼が気を許せる、そんな場所になれるならば、
それだけでもボクが『ここ』に生まれてきた意味になる。
この背中に温もりが残っているならば、きっとボクは、もっと強くなれる。
憧れのその先に、胸を張って立ち向かえるボクで居られるだろう。
「のく?」
「なぁに、ゆうちゃん」
「何処に行っても、一緒だぞ」
ボクは、もう一度無言で頷いた。
いつもは緩く抱きついている彼が、一瞬だけ力をこめてボクを抱き締める。
『離れていくな』と縋られているような、そんな気がする抱擁だった。
またボクは挫けそうになるときが来るかも知れない。
でも背中の温もりを思い出して、諦めず顔を上げて進むよ。
沢山の特別な温もりをくれたキミに、負けないように・・・。
まだ叶えてないから夢見れる
叶えられないならずっとみれる
生まれ変わっても またボクにして。
キミをそばで ずっと見ていたい。
この想いよ 空に届け。
広い世界 長い時代 出会い そして 愛
ボクの背中に「夢」
終わり
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やばい、隠し文字、消して無いじゃん☆
ってことで、これは雄ちゃんの「ライオン」が元になっていました。
そーなんだよね、まんま歌の世界だけじゃなくて、他のエッセンスも入れないと説得力がないんだよね。
そこらへんで『オレンジ』の処理に困っております(^^;
何か外から取り込まないと、自分の中だけのもので表現するのに限界が来るわよね~~。
『オレンジ』のお話、期待してくれる人応援してくれる人いらっしゃいますが、
あれ、絶対に雄輔が可哀想な結末で終りますけど、良いんでしょうか?
ただでさえ最近うちの雄輔は可哀想なので、再放送には可哀想でない話を選んでみました☆
この頃のストーリーを書くことへの熱意が欲しい。