『想いは矢印~届け、君の心に~』① | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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ご注意下さい!!私のブログは『愛』と『毒舌』と『突っ込み』と『妄想』で出来上がってます!!記事を読む前に覚悟を決めてくださいね(^^;。よろしくお願いします☆

以下の文面はフィクションです。
実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。
似てる人が居ても、それは偶然の一致です。
ですので、どっかに通報したりチクったりしないでください★
・・・、頼むよ、マジで (ToT)


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突然モニターに映し出されたのは剛士が地面に横たわっている姿だった。

顔を苦痛に歪ませて、付き添いのドクターにマッサージをしてもらっている。

体中から湧き出した汗が、アスファルトにまで染み込んでいるようだった。


思わず息を飲む。

あんな剛士は見た事がなかった。

いつ強気で、余裕をかまして涼しい顔をしてるのに、地面に這い蹲るようにもがき苦しんでいる。


大海は指先から全身が震えそうになるのを必死で耐えた。

動揺に負けそうな心を、必死になって奮い立たせる。

信じろ、信じるんだ、あの人はこんなところで負けたりしない。

信じて待つんだ。


前列の雄輔は、と後ろから顔を伺い見る。

シビアな顔をしていたが、決して動揺している様子ではなかった。

彼のほうが、あの人の真の強さを知っているのかも知れない。

さもなくば、あの人のあんな姿を前にも目にしているのかも知れない。


どうか、と願う。


どうかあの人が無事にココへ戻って来てくれるように、と。






設定された距離は比較的短いほうだった。

走る時間も朝早く、夜の涼しさが残る時間。

これ以降は山越えや気温が上がる時間になる。

剛士が作ったタイムロス、取り返すなら自分しかいないと思った。


足の痛みは結局回復しないままだったが、我慢できないわけではない。

いける、そう信じて走り出した、けれど。


アスファルトでの走行は、想像以上に足に影響が出た。

半分もいかないうちから、足の痛みが増してきた。

まだ走れるだけの体力はあるのに、足の状態がそれを許してくれない。


どうして、と情けなくなる。


あの人たちはどんなときも予想以上想定外の力を発揮して難題を乗り越えてきたのに、どうして自分にはそれが許されない?


託されていたのに。

『剛にぃと雄ちゃんは自信過剰で突っ走るから、見張っていてあげてね』って。


きっと自分にそう頼むのだって本当は悔しかったと思う。

だけどいつもの笑顔で、大切な人たちのことを宜しくって託されていたはずなのに。


ゴールした途端、スタジオからの声に涙が零れた。

あの人の声がはっきり聞こえた。

自分が今、どれだけ落ち込んでいるかがわかっている、慰めるような声だった。


「走る前からテーピングしてたもんな・・・」


結局、心配されてばかりだった。

対等の位置に行きたいと、そう願って必死になってきたのに。

それどころか、雄輔のように信頼の眼で彼を見ることすら出来てなかった。


近くに行きたい、そんな願いすら叶わない。

不甲斐無くて情けなくて、中継が途切れた後もしばらく立ち上がれなかった。









あまりの憔悴ぶりに、雄輔のほうが一瞬ひいてしまった。

スタジオへの移動中に戻ってきた大海と合流したが、その落胆した姿は痛々しいくらいだった。


まだ不自然にしか動けない剛士が真先に近寄って声をかける。

剛士の励ましになんとか笑顔を浮かべる大海だったが、それが無理矢理だというのは誰の眼にも明らかだった。

根は真面目すぎるくらい真面目なヤツだから、深く考えすぎているのだろう。


先に呼ばれて剛士が危うい足取りでスタジオに向かう。

大海も遅れてそれに続く。

慣れ親しんだスタジオのセットが見えると、雄輔もほっと息をついた。


そんな中、重かった大海の足が、ゆっくりと止まった。

他の仲間はみんな指示された席に座っていくのに、大海だけはスタジオに入ろうとしない。

なんで?と雄輔は大海の元に引き返した。


「どうした?足が痛いのか?早くしねーと放送が始まっちまうぞ?」


手を捕まえようとすると、避けるように逃げられる。

何を考えているのかと顔を覗き込もうとしたときだった。


「・・・入れません」


小さく呟く大海は、確かにそう言った。

大海の異変に剛士も気が付いたが、彼の足の状態で戻ってくるには距離が空きすぎてしまった。


「なに訳わかんねーこと言ってんだよ?何が気にいらないか知らないけど、今は行くぞ」


雄輔の問いかけに、大海は俯いたままふるふると首を振って無理だと答えた。

小さな声でのやりとりなので、スタッフや他の人間にはまだ会話の内容は聞こえてない。

だとしても、大海の気持ちが戻るのを待っている時間も無かった。


「サッキー」


がっ、と、彼の折れそうな両肩を掴む。

突然の行為に驚いた大海が、はっとしたように雄輔を見上げた。


「お前が走ってるのを応援してくれてた人たちが沢山見てるんだぞ?

ちゃんとテレビに出て、ありがとうございましたって行動で伝えなきゃ駄目だ。

それに、ココに来たくったって来れないヤツもいるんだ。これくらいで逃げるな」


雄輔は低く力強い口調で言い切ると、まだ呆然としてる大海を引き摺るようにスタジオへ押し込んだ。

そしてそのまま剛士の隣に座らせる。

最初の指示では、最前列真ん中に自分が座れと指示されていたが、知ったこっちゃ無い。

雄輔は大海の横の足元にしゃがみこんだ。


剛士と自分に挟まれて、逃げ出せるもんなら逃げてみろ。


無言になった雄輔の背中は、そう物語っていた。


「上地さん・・・」


その後に何か言葉が続いた。

ごめんなさいだったかありがとうだったか、分からない。

ただ、こんなところで挫けて欲しくなかった。

そんな弱い子じゃないって、雄輔だって信じていた。


「はい、5秒前です!」


スタッフの声がスタジオに響く。

ちゃんと笑えよ。

雄輔は後ろを振り向かず、前に見据えた視線で叱咤を飛ばした。





続く